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姫田麻利子+Steve MARSHALL「友だちだよね? フランス語と英語のちがうところ」

第6回 フランス語のonは英語でどう訳す?

 日常的によく使う表現や文のかたちについて、英語とフランス語の似ているところ、ちがうところを探しています。今月は、フランス語の主語の代名詞on と、それに対応する英語のyou やthey の使い方について考えます。

 

今月の表現

1)日本では、車は左側通行でしょ?

 仏 Au Japon, on conduit à gauche, nʼest-ce pas ?

 英 In Japan, you drive on the left, donʼt you?

 英 In japan, they drive on the left, donʼt they?

2)じゃ、行こうか。

 仏 Bon, on y va ?

 英 Well, shall we go?

3)この本を読むように言われたの。

 仏 On mʼa dit de lire ce livre.

 英 I was told to read this book.

 英 Someone told me to read this book.

 

Mariko:先月号で、カナダではフランスよりもすぐtu になる話をしたけど、そう言えば、フランス出身でカナダ英語圏の大学で教えてる先生が、学生とフランス語で面談中に、自分はvous で話してるのに、学生の方がtu を使うって言ってた。面談の最後に、学生の方が先生にtu でいいよって言ったって(笑)。

Steve : ちなみに私は、年上の人や社会的に上の立場の人にはvous を使うように習いました。ちゃんとvous 使えます(笑)。フランスにいた時、息子のサッカーで一緒になる親たちは、私にずっとvous だったんだよね、一度だけコーチが私にtu で話しかけて来たんだけど、ついvous で返しちゃったら、もうそれっきりtu にはしてくれなかった……。その後、マルセイユのユニフォーム着てるお父さんだけが、自分は南仏出身だから誰にでもtu なんだって言って、tu で話してくれて、すごくホッとしたよ。

Mariko:英語ではtu とvous の使い分けで悩むことはないけど、フランス語でon を主語にする文を英語にしようとして、私は言葉につまる。英語では、you が一般的な「人々」を指すことがあるでしょ? でも、1 対1 で話していて、急にyou が一般的な人々の意味になると、一瞬ついていけない。例えば、Steve が日本出身の私に「日本では車は左側通行だよね?」と言うなら、“In Japan, do you drive on the left, donʼt you?”でしょ? フランス語なら、« Au Japon, tu conduis à gauche, nʼest-ce pas ? » よりも、« Au Japon, on conduit à gauche, nʼest-ce pas ? » と言うけど。

Steve:その一般的な人々の中に、相手が含まれるなら、you を使う。話し手も聞き手も含まないならthey だね。その状況なら、“In Brazil, they drive on the right.” とか。

Mariko:例えば« On dit que ce restaurant est bon. » の代わりに、“They say that this restaurant is good.” と言うのを聞いたことがあるけど、文脈なしに、誰を指すわけでなく、ばくぜんと人々の意味でthey を使って大丈夫?

Steve:ふつうは、they は、文脈で誰のことかだいたいわかる時に使うけど、フランス語のon の代わりに、そういう風に使う人もいるよ。ただし、« On dit que ce restaurant est bon. » の意味なら、“Iʼve heard that this restaurant is good.” と言うことが多いと思う。

Mariko:ふだんの会話の中で、相手を含む「私たち」の代わりにon を使うことが多いから、on の文を英語にする時に自動的にwe を使いそうになるけど、« On peut dire comme ça en anglais ? » と言いたい時、“Can we say it like that in English?” とは言わない? 相手も自分も含む一般的な人々について。

Steve:文法的には間違いじゃないけど、それは言わない。“Can you say it like that in English?” だね。自分が英語でそう言っていいか確認したいとして、“Can I say it like that in English?” なら言うかな。

Mariko:そうなのね。フランス語で« On ne sait jamais (ce qui peut arriver). » と言う時、話し手と相手を含む一般的な人々のはずだけど、英語では“You never know (what might happen).” って言うでしょ? そう言われると、個人的に注意されてる感じがちょっとする……。 « On ne sait jamais. » の訳としては、“One never knows.” という表現も参考書とかで見るけど、どんなニュアンスの違いがあるの?

Steve:フランス語のon の訳としてone を使うのは、今はもう女王と皇太子くらいかなぁ。“One would think that …”(~と考えてもいい)なんかは、今でもよく使われるけど、教養のある人たちの言い方だね。

Mariko:Steve の説明って、ちょいちょいロイヤルファミリー登場するよね……。ふだんの会話の中で、on で言うよく使う決まり文句では他に« On verra. » があるけど、これは、“Weʼll see.” でいいでしょ?

Steve:« On verra. » は、ポジティブに判断を先送りするというか、その場でどうにかなることを期待する表現だと思うけど、“Weʼll see.” は、たしかにその意味でも使うけれど、どちらかと言うと誘いをやんわり断る時、「そのうちね」の意味で使うことの方が多いよ。

Mariko:同じかたちでも意味合いが違うのね……。フランス語のon を英語にする時、私にとって一番難しいのは、« On mʼa dit de lire ce livre. » みたいな文。

Steve:“I was told to read this book.” だね。

Mariko:そのかたちは、衝撃。フランス語では、能動態の文で間接目的語にあたる語が、受動態の主語になることはないから。

Steve:“Someone told me to read this book.” とも言えるよ。

Mariko:その方が言いやすい。フランス語は英語と比べて、ふだんの会話で、受動態を使う頻度が低いんじゃないかな。書く時には« Ce stade a été construit en 2010. » と言っても、会話の中なら « On a construit ce stade en 2010. » って言う。

 

【今月のまとめ】

 フランス語の主語on は、ばくぜんと「人々」を指すが、日常的な会話の中では「私たち」の意味でよく使われる。英語では、ばくぜんと「人々」について、そこに聞き手が含まれるならyou、そうでなければthey で言うことができる。

 

《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》

 バンクーバー郊外のリッチモンド市は、住民の約半数が中国系で、中国語のみの看板も目立ちます。市では、商用看板について英語併用義務化の議論がたびたび行われていますが、多文化の尊重と表現の自由に関わるため、ゆるやかな奨励にとどまっています。リッチモンド市にあるバンクーバー国際空港内は、英仏中3言語表示(左図)、2010 年のオリンピック施設は、英語とフランス語の表示(右図)です。

 
  

◇初出=『ふらんす』2017年9月号

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著者略歴

  1. 姫田麻利子(ひめた・まりこ)

    大東文化大学教授。仏語教育・異文化間教育

  2. Steve MARSHALL(スティーブ・マーシャル)

    Simon Fraser University 教育学部准教授。著書 Advance in Academic Writing

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