白水社のwebマガジン

MENU

姫田麻利子+Steve MARSHALL「友だちだよね? フランス語と英語のちがうところ」

第2回 お礼とその応答の表現

 日本語とフランス語、または日本語と英語に比べたら、フランス語と英語はずっと近いのに、一見似ていても異なる意味をもつfaux amis(にせの友だち)もたくさんあります。この連載では、単語というより、日常的によく使う表現や文のかたちについて、英語とフランス語で少しちがうところを探しています。

 今回は、お礼と、お礼に対する応答の表現を比べます。

 

【今月の表現:「ありがとう」「どういたしまして」】

[フランス語の表現] → [英語での似た表現]

Merci. → Thanks.

Je te / vous remercie. → Thank you.

Merci beaucoup. → Thank you very (so) much. / Thanks a lot.

Cʼest gentil. → Thatʼs kind of you

Cʼest sympa. → Thatʼs nice of you.  

Je vous en prie. → Youʼre welcome.

Bienvenue. (ケベック)  

De rien. → Not at all.

 

Mariko:“Thank you.”も“Thanks.”も、フランス語では« Merci. »になると思うけど、親しい人に“Thank you.”は丁寧すぎ? “Thanks.”は親しい人にしか言えない?

Steve:“Thank you.”は丁寧で、店員とか知らない人に言う、“Thanks.”はもっとカジュアルで友だちや家族に使う。と、いったんは言えるけど、例えば、家で誰が犬の散歩に行くか話していて、誰も行きたくない時に、息子がじゃあ行くよと言ってくれたら、そこは家族でも“Thank you.”だね。感謝が大きいから。反対に、年上の人や知らない人でも、親しみを見せていこうと思う時に“Thanks.”と言ったりする。ちょうどvousからtuに変えるみたいに。あとは、イントネーションで、感謝のレベルやうれしさを表すこともできる。« Merci. »もいろんな言い方するでしょ?

Mariko:へー! 意外と繊細だわ。そう言えば、お礼に対して「こちらこそ」と言う時、英語は“Thank you.”- “No, no, Thank YOU.”と、youを強調して言うのね。フランス語だと、« Cʼest moi (qui te / vous remercie). »とよく言うけど。

Steve :「こちらこそ」の時、“It should be me thanking you.”とか “I should be thanking you.”とも言うよ。

Mariko:親しい相手に“Thanks”なら、相手の名前を付けた方がいい? あたたかさが増すから、フランス語ではそうした方がいいって習ったけど。« Merci, Steve. »とか。

Steve:感謝の気持ちを多めに表わそうとする時、相手の名前を付けて言う気がする。

Mariko:相手が知らない人で、丁寧に言う時、SirとかMaʼamは付ける? フランスで « Merci Monsieur. » « Merci Madame. »を聞く頻度より、ずっと低い気がする。Steveはどんな状況ならMaʼamを付けて話す?

Steve:女王と話す時(笑)?というか、言ったことがない。USAのデパートだと、お客さんに使うし、アメリカ人観光客がイギリスに来て、知らない人に道を聞く時なんかにSirやMaʼamと言ってるけど、イギリス人は驚くよ。

Mariko:“Thank you.”の前に付ける言葉は、“Great.”をよく聞く気がするけど、

これは« Merci. »の前の« Super ! » « Génial ! »と同じでしょ? 他には何がある?

Steve:“Oh thanks.”(笑) あとは、うれしそうなイントネーションにするとか(笑)。

Mariko:むぅ。じゃあ、フランス語だと、« Cʼest gentil. Merci. »は、ほんのちょっと何かしてもらった時のお礼によく言うけど、“Thatʼs kind.” って言える?

Steve:“Thatʼs very kind of you. Thank you.”が定型だね。とくべつな親切を受けた時の言い方で、フランス語なら、« Cʼest très gentil à vous.»とà vousを付けて、相手への感謝を強調する時の感じかな。そうそう、フランス語ではsympaをとてもよく使うよね、いい人、いい感じの店、お礼でも« Cʼest sympa. Merci.»とか。このsympaは、英語のniceで、英語のsympatheticとは違う。a sympathetic restaurantとは言えない。

Mariko:Faux amisね。« Je vous remercie infiniment. »みたいに改まったお礼の表現は、英語ではどんな言い方がある?

Steve:“Thank you very much.” は改まったお礼の表現です!

Mariko:えー。« Merci beaucoup. »の英訳も“Thank you very much.”でしょ?

Steve:そんなにバラエティがないよ。でも、“Thank you so much.”なら、“Thank you very much.”より、あたたかい感じ。近い間柄や、近さを示したい相手なら、« Mille mercis. »の代わりに、“Thanks a lot.”とか。

Mariko:あ、ほら、英語だと、“Thank you. I really appreciate it.”というの、とてもよく聞く。何かしてもらって「とても助かりました」みたいな時でしょ? フランス語にもapprécierという動詞はあって、« Jʼapprécie beaucoup votre aide. »と言えるけど、スピーチか何かで公式に賞賛してる感じ、あるいはものすごく上から目線な、評価のニュアンス(笑)。「助かりました」の場面でも、フランス語は« Merci. Cʼest très gentil à vous. »でいいと思う。

Steve:お礼に応える表現は、私はフランス語では« De rien. »しか知らないんだけど、フランス語の« Bienvenue. »と英語の“Youʼre welcome.”はfaux amisでしょ?

Mariko:“Youʼre welcome.”は、フランスでは« Je vous en prie. » « Je tʼen prie. »。だけどケベックでは« Bienvenue. »って言う。初めての時びっくりした! « De rien. »は、私の感覚では”Youʼre welcome.”よりずいぶん軽いけど、“Thatʼs nothing.”とは言わないの?

Steve:“Thatʼs nothing.”は言わない!“Youʼre welcome.”はそんなに改まってないよ。“Not at all.”の方がきちんとした言い方。“Itʼs my pleasure.”も言う。私はよく使う。でも、お礼に対しては、“No problem!”と返す人がとても多いね。

Mariko :お礼へのリアクションとして、フランス語でも« Cʼest avec plaisir. »は言うけど最近の使い方で、英語の“Itʼs my pleasure.”みたいなきちんとした印象は受けないわ。

 

【まとめ:今月のfaux amis】

お礼の表現

フランス語の« Merci. »は、店のサービス等に対してよく使うが、親しい人には、これだけでは素っ気ない。一方、英語の"Thanks."は、親しい人に使う表現。

 

《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》

 今月もパッケージの2言語表示を紹介します。どの語とどの語が対応するか、比べてみるのも楽しいです。日本語の中に定着している英語も多いせいか、フランス語の方が得意なつもりでも、英語表示の方がわかりやすいことがあったり、カナダ固有のフランス語があったりもします。

 


◇初出=『ふらんす』2017年5月号

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 姫田麻利子(ひめた・まりこ)

    大東文化大学教授。仏語教育・異文化間教育

  2. Steve MARSHALL(スティーブ・マーシャル)

    Simon Fraser University 教育学部准教授。著書 Advance in Academic Writing

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2025年3月号

ふらんす 2025年3月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

白水社の新刊

フラ語フレーズ集、こんなの言ってみたかった!

フラ語フレーズ集、こんなの言ってみたかった!

詳しくはこちら

白水社の新刊

声に出すフランス語 即答練習ドリル中級編[音声DL版]

声に出すフランス語 即答練習ドリル中級編[音声DL版]

詳しくはこちら

ランキング

閉じる