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姫田麻利子+Steve MARSHALL「友だちだよね? フランス語と英語のちがうところ」

第1回 欲しいものを言う表現

 ふたつの言語の間で似たつづりなのに意味の違う語同士を、フランス語ではfaux amis(にせの友だち)と呼びます。例えば、フランス語のlibrairie(書店)と英語のlibrary(図書館)がそうですね。

 この連載では、単語同士というより、日常的によく使う表現や文のかたちについて、英語とフランス語の「にせの友だち」を探そうと思います。英語を使うことに慣れた方がフランス語を勉強し、英語からの推測でフランス語を話してみたけれど、うまく通じなかったとか、反対に、ふだんフランス語を話す機会の多い方が旅先などで、フランス語から英語への置き換えでしのごうとしたら、ちょっと変な顔をされたとか、経験はありませんか?

 1 年間、カナダ西部英語圏(ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー)に滞在したけれど、英語は不得意のままの姫田が、バンクーバーの大学で英語教育・複数言語話者への教育を研究しているSteve Marshall 先生に聞きながら話を進めていきます。Steve さんは、第1 言語の英語のほかに、フランス語、日本語、スペイン語もレパートリーです。対話は日本語でご紹介しますが、実際にはふたりは主にフランス語で、時々日本語と英語で話しています。コーナーの終わりでは、カナダ英語圏のフランス語ランドスケープ(町で見つかる表示など)もご紹介します。

 初回は、次のような表現を比べます。

 

【今月の表現:「コーヒーをひとつください」】

[フランス語の表現]    →    [英語での似た表現]

Je voudrais un café, sʼil vous plaît.  → Iʼd like a coffee, please.

Un café, sʼil vous plaît.   → A coffee please.

Je pourrais avoir un café ?  → Could I have a coffee?

Je peux avoir un café( sʼil vous plaît) ?  → Can I have a coffee?

Donnez-moi un café, sʼil vous plaît.  → Please give me a coffee.

 

Mariko:カナダのバンクーバーはシアトルから近くて、スターバックス的なカフェがほぼ30 メートルおきにあるでしょ? その多さにまず驚いたんだけど、そういう所で例えばコーヒー1 杯注文する時、ほとんどの人が “Can I have a coffee?” って言うのにもちょっと驚いた。“Iʼd like a coffee.” じゃないのね。

Steve:“Can I have ~?” と同じくらい、私は “Could I have ~?” もよく使うよ。 “no-foam extra hot latte(泡立てないミルクの熱いラテ)” とか特別な希望を言うなら、かならず “Could I have ~?” を使う。丁寧になるからね。あと、レジの人が特別に感じよくて、こちらも感じよく思われたい時なんかも “Could I have ~?” ですね。

Mariko:“Can I have ~?” と “Could I have ~?” の違いは、« Je peux avoir ~ ? » と« Je pourrais avoir ~ ? » の違いと同じだから、その2 つの間の使い分けはよくわかるんだけど、フランス語なら、カフェで欲しいものを言う表現の中で一番よく使うのはたぶん « Je voudrais un café, sʼil vous plaît. » でしょ? でも “Iʼd like a coffee.” は、あまり聞かない。

Steve:“Iʼd like a ~.” も言わないことはないけど、レジで頼むようなカフェでは、たしかに“Can I have ~?” って言う人が一番多いね。

Mariko:フランスでも若い人は、レジで頼むようなカフェでも« Je peux avoir ~ ? »を使ってる気がするけど、相手がNon と言わないことが確実な場面だから、私は「もらえます?」より「欲しいです」って言いたい。付け足しのお願いをする時(たとえばun verre dʼeau とか)には使うけど、やっぱり« Je pourrais avoir ~ ? » にするか、せめてEst-ce que を付ける。« Est-ce que je peux avoir ~ ? » とか。

Steve:あ、フランス語では « Donnez-moi un café, sʼil vous plaît. » って言う人もいるよね? でも、 “Please give me ~.” は言わないよ。

Mariko:たしかに! 命令形の « Donnez-moi ~, sʼil vous plaît. » は、常連のおじさんが注文する時の感じで、やっぱりちょっとarrogant だけど、英語の “Please give me~.” に比べたら、使われてる。

Steve:英語では命令形は、頼む表現としてはとても失礼で避けるべきものだけど、フランス語は、tu とvous の使い分けがあるから、vous の命令形なら、英語の命令形ほどには乱暴に聞こえないのかも。

Mariko:“A coffee please.” と欲しいものだけの言い方は、使っていいの? フランス語は、« Je voudrais ~. » の次に、« Un café, sʼil vous plaît. » のかたちが多いと思うけど。

Steve:使われてるよ。ひょっとしたら “Can I have ~?” より多いかもしれないよ。“Hi there, what can I get you ?” – “Hi. A coffee please.” という流れは、とても自然じゃないかな。

Mariko:そうそう、カフェでも、スーパーのレジでも、あいさつが “How are you?”なの、慣れるまでどきどきした。フランスだったら、顔見知りのところでない限り、« Bonjour. » に対して « Bonjour. » でいいのに。

Steve:ケベックだと、店員が « Comment allez-vous ? » と言ってくる場合もあるけどね。元気かどうか、まじめに答えなくていいですよ(笑)。

Mariko:あと、注文する表現には、“Iʼll have ~.” もあるでしょ? フランス語の« Je vais prendre ~. » « Je prendrai ~. » に当たる表現だと思うけど、 “Iʼll take ~.” とは言わないの? prendre は、だいたいtake と同じ意味なのに。

Steve:take は “Iʼll take a coffee to go.” とか、持ち帰りの時なら使える気がする。

Mariko:へえ、それだけ?……あれ、初回は、faux amis とも言えない微妙なちがいの話になりましたけど、« Je vais prendre ~. » と« Je prendrai ~. »、どっちも“Iʼll have ~.” なの?とか、問題は山積みです。

Steve:次回もお楽しみに。

 

【まとめ:今月のfaux amis】

欲しいものを言う表現

フランス語でよく使うのは « Je voudrais ~, sʼil vous plaît. »

英語でよく使うのは “Can I have ~?” あるいは“Could I have ~?”

 

《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》

 カナダの公用語は英語とフランス語ですが、州ごとにも公用語が定められています。ニューブランズウィック州では英仏とも公用語ですが、ケベック州の公用語はフランス語、その他の州の公用語は英語です。ブリティッシュ・コロンビア州は英語を公用語とする州ですが、全国展開の商品表示は二言語表記です。スターバックスのカップにもフランス語が書かれています。右はティムホートンのドーナツの袋。

 


◇初出=『ふらんす』2017年4月号

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著者略歴

  1. 姫田麻利子(ひめた・まりこ)

    大東文化大学教授。仏語教育・異文化間教育

  2. Steve MARSHALL(スティーブ・マーシャル)

    Simon Fraser University 教育学部准教授。著書 Advance in Academic Writing

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