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「韓国語の単語はこう覚える~外来語編~」河崎啓剛

第9回 子音の対応規則(4)

 第6回~第8回では、ぜひ覚えておきたい重要な子音の対応規則を紹介し、解説して参りました。今回は、子音に関して本来でしたら一番最初にお話しておくべき「大前提」をやはり一度確認しておく事にしましょう。きっと多くの読者の皆さんは既にお気づきかと思いますが、英語の子音の「清濁」(無声音・有声音と言います)と韓国語の子音との対応関係の話です。規則は非常にシンプルで、以下のように英語の「無声音」は「激音」、「有声音」は「平音」という対応関係になります。

 

無声音→激音

 

 

 

有声音→平音

 

 

k → ㅋ

card

카드

 

g → ㄱ

garden

가든

t → ㅌ

taxi

택시

 

d → ㄷ

dance

댄스

p → ㅍ

park

파크

 

b → ㅂ

butter

버터

ch → ㅊ

check

체크

 

j → ㅈ

juice

주스

 

 それでは、これまでの復習も兼ねて、色々な具体例を見てみる事にしましょう。少し不規則な例も混ぜてみましたが、いかがでしょうか。韓国語の外来語の語形が、だんだん予測できるようになってきましたか?

 

k →

 king, queen, speaker, figure skating

 ング、イーン、スピーー、フィギュアスート

 , , 스피, 피겨 스이팅

 

g →

 golf, jogging, gallery, slogan, guard[gɑːd]

 ルフ、ジョング、ギャラリー、スローン、ード

 프, 조, 러리, 슬로,

 

t →

 trouble, tape, soft, romantic, heart[hɑːt]

 ラブル、ープ、ソフ、ロマンック、ハー

 러블, 이프, 소프, 로맨, 하

 

d →

 date, handle, digital, handicap

 ート、ハンル、ジタル、ハンキャップ

 이트, 핸, 지털, 핸

 

p →

 printer, happening, propose, sample

 リンター、ハニング、ーズ、サン

 린터, 해닝, 즈, 샘

 

b →

 brand, blend, alphabet, number, barbecue

 ランド、レンド、アルファット、ナンー、キュー

 랜드, 렌드, 알파, 넘, 바비

 

ch[tʃ] →

 cheese, channel, sandwich, switch, natural

 ーズ、チャンネル、サンドイッ、スイッ、ナチュラル

 즈, 널, 샌드위, 스위, 내

 

j[dʒ] →

 jelly, jazz, original, page

 リー、ジャズ、オリナル、ペー

 리, 즈, 오리널, 페이

 

 以上の例から、英語の子音と韓国語の子音が非常にシンプルに対応している事が確認できると思います。ところで、日本語の単語を韓国語に取り入れる場合は、こんなにシンプルでしたでしょうか?例えば「うきょう」は「쿄」、「きょう」は「교」などという風に、同じ清音「と」でも語頭の場合は平音で「도」、語中の場合は激音で「토」などという面倒な規則があるのでしたね。一方で英単語を韓国語に取り入れる場合は、そんなややこしい決まりは一切無いということです。

 

 さて、ややこしい決まりが無いなら話は終わっても良いのですが、以下はまた「なぜこうなるのか」が気になる人のための、韓国語学習の上では知らなくても困らない余談です。

 読者の皆さんは、英語を学習する時にはあまり気にしてこなかったかもしれませんが、英語の k, t, p, ch などが、基本的にそもそも「激音」(息を強く出す発音。一般的には「有気音」といいます)である事はご存知でしたでしょうか?英語の card の発音は、精密に書けば [kɑːd]ではなく[kʰɑːd]です。[kʰɑː]は韓国語の耳では「카」にしか聞こえませんので「카드」となります。一方、garden[gɑːdn]の[gɑː]は韓国語の耳では「가」にしか聞こえませんので「가든」となります。だから韓国語話者は何の迷いもなく英語の k [kʰ ] = ㅋ、 g = ㄱ と認識しています。

 ご存知の通り、韓国語の平音 ㄱ は語頭では濁らず [k] と発音され、語中では(正確には「有声音と有声音の間では」)濁って [g] と発音されますが、それは完全に自動的で、普通の韓国語話者は音が変わっている事にすら全く気づきません。[1] だから本当は英語の g = ㄱ などというそんな単純な関係ではないのですが、言語に関心がある人でなければそんな細かい事は考えませんので、普通の日本語話者が英語の k = カ行、g = ガ行 だとシンプルに思い込んでいるのと同様に、普通の韓国語話者は英語の k = ㅋ、 g = ㄱ だとシンプルに思い込んでいます。筆者の河崎(カワサキ)は韓国語で 가와사키 と名乗っていますが、韓国ではローマ字表記を勝手に Gawasaki にされてしまう事がよくあります。言語によって音の区切り方が違うので、こういうズレが起こってしまうんですね。

 また、昔の韓国の道路標識や駅名標示では 부산(プサン)は Pusan、대구(テグ)は Taegu と書かれていたのですが、2000年に韓国語の規範的ローマ字表記法(文化観光部2000年式)が制定され、それぞれ Busan、Daegu に変更されました。つまり「外国人にはどう聞こえるか」にこだわるのではなく、英語の b = ㅂ、 d = ㄷ とシンプルに対応させた「韓国語の、韓国語の論理による、韓国語のための表記法」に変えたわけです。

 

 以上、今回紹介した対応規則は、表面上はシンプルな規則ですので、一度わかってしまえばすぐに慣れて、特に意識する必要も無いでしょう。しかし、実は裏にはなかなか複雑な事情もあるというお話でした。

 

[1] 例えば、読者の皆さんは韓国語のパッチム -ㅇ, -ㄴ, -ㅁ の発音を習う時に、日本語で「あんがい」「あんない」「あんばい」といえば、「あん」の部分がそれぞれ「」「」「」のような違う発音になっている、などという事を習いましたでしょうか。このように日本語の「ん」は後に来る音の影響を受けてそれぞれ違う音で発音されるのですが、それは完全に自動的で、普通の日本語話者は音が違う事にすら全く気づきませんね。それと同じことです。

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著者略歴

  1. 河崎啓剛(かわさき・けいごう)

    東京大学大学院総合文化研究科准教授。東京大学教養学部超域文化科学科言語情報科学分科卒業。ソウル大学校大学院国語国文学科博士課程修了。文学博士。崇実大学校日語日文学科(韓国ソウル)助教授、帝京大学外国語学部講師を経て、現職。専門は言語学、韓国語学、韓国語史、日韓対照言語学。著書に『中世韓国語感動法とは何か』(原題は韓国語)(韓国京畿道:新丘文化社、2017年)など。

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