第5回 英語の「母音弱化」(2)
英語の母音弱化現象は、前回お話したように結果的に曖昧母音[ə]になる場合が多いのですが、その他のパターンについても紹介しておきましょう。
例えば以下のように、アクセントの無い音節で弱化した曖昧母音[ə]が更に弱化して、母音が完全に脱落して無くなってしまうケースがあります。
[tən][dən][dəl] の弱化母音[ə]が脱落した [tn][dn][dl]
cúrtain, bótton, gólden wéek, gárden, sándal, scándal
[kə́ːtn], [bʌ́tn], [ɡóuldn wíːk], [ɡɑ́ːdn], [sǽndl], [skǽndl]
カーテン、ボタン、ゴールデンウィーク、ガーデン、サンダル、スキャンダル
커튼, 버튼, 골든 위크, 가든, 샌들, 스캔들
日本語と違って、韓国語は英語の実際の発音に忠実ですね。この英語の発音tn/dn/dlにはもはや母音がありませんが、韓国語では音の構造上、母音を完全に無くしてしまう事はできませんので、仕方なくできるだけ目立たない母音「ㅡ」を挿入して 튼/든/들 のように受け入れる事になります。だから「カーテン」(curtain) は「커텐」でも「커턴」でもなく「커튼」になります。この「튼」を見たら、「こんなに弱くなっちゃったのか…」と感じて下さい。
また、母音弱化現象のもう一つ別のパターンとして、曖昧母音[ə]ではなく以下のように[i](より精密には[ɪ])になるパターンもありますので要チェックです。韓国語はこの場合の弱化母音[i]もしっかり反映して、母音「ㅣ」で写し取っています。
a[ei]の弱化母音[i(ɪ)] → ㅣ
méssage, sáusage, ímage, chócolate, mánager, dámage
メッセージ、ソーセージ、イメージ、チョコレート、マネージャー、ダメージ
메시지, 소시지, 이미지, 초콜릿, 매니저, 대미지
e[e]の弱化母音[i(ɪ)] → ㅣ
jácket, búsiness, élevator, repórt, desígn, cemént
재킷, 비즈니스, 엘리베이터, 리포트, 디자인, 시멘트
ジャケット、ビジネス、エレベーター、レポート、デザイン、セメント
参考までに、英語の発音のコツも解説しておきましょう。実はこの弱化した[i]は、より精密な記号では[ɪ]のように書かれるのですが、日本語の「イ」や韓国語の「이」とは違います。ポイントは、口を思いっきり横に広げて明確に「イー」とはやらない事です。むしろ曖昧母音[ə]に近い、「イ」と「エ」が混ざったような、口の緩んだ軽い「イ」の音です。実際、辞書によってはこれらのうち一部の単語の発音記号を[i(ɪ)]ではなく曖昧母音[ə]と示している場合もあります。
前回お話したbalance「밸런스」の例のように、英語の damage(ダメージ)が韓国語では「대미지」となる事を意識してそれに寄せて発音すれば、英語本来の発音 [dǽmidʒ]([dǽmɪdʒ]) に近づける事ができますが、完全に「デミジ!」とやったら「韓国式英語(Konglish, 콩글리시)」になってしまいます。「デ」は口をより広く、「ミ」は曖昧に、「ジ」はやや唇を丸めて発音すると、とても英語っぽくなるはずです。