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「韓国語の単語はこう覚える~外来語編~」河崎啓剛

第2回 日本語では「ア」になる英語の4つの母音(1)

 日本語は英語より母音の数が少ないので、英語の発音を聞き写すのに、どうしても母音の数が足りません。例えば以下は、英語では全て発音が異なる4つの母音なのですが、日本語に取り入れられたら、母音が足りず全部「ア」になってしまいます。(※この連載の英語の発音記号は、原則的に韓国国立国語院「外来語表記法」の表記方式に従います。)

 

 

card

dance

service

bus

 

カー

ンス

サービス

綴り

ar

a

er

u

英語の母音

[ɑː]  

[æ] 

[əː]

[ʌ]  

対応する日本語の母音

アー

アー

 

 一方、韓国語はもう少し母音の数が多いので、日本語よりもう少し区別できます。(ただし母音の「長短」は無視されてしまいますが…)

 

 

card

dance

service

bus

 

비스

綴り

ar

a

er

u

英語の母音

[ɑː]  

[æ] 

[əː]

[ʌ]  

対応する韓国語の母音

 

 前回お話したように、「英語の正確な発音」や「発音記号」に苦手意識がある人でもご安心下さい。単語のスペルで大体分かりますので。逆に、この韓国語の勉強を通して英語の発音が上達するかもしれません。
 さあ、「習うより慣れろ」で以下のまとめを御覧ください。

 

本語では「ア」になる英語の4つの⺟⾳[ɑ][æ][ʌ][ə]

 

日本語で「アー」になる ar [ɑː]   →  

 card, apartment, party, guitar, target, marketing

 カード、アパート、パーティー、ギターターゲット、マーケティング

 드, 아트, 티, 기, 겟, 케팅

 

日本語で「ア」になる a [æ]   →                           (cf. 「キャ」「ギャ」)

 dance, jam, gap, camp, battery, taxi, pattern, album

 ンス、ジャム、ギャップ、キャンプ、ッテリー、クシー、ターン、ルバム

 스, , , 프, 터리, 시, 턴,

  

日本語で「アー」になる er, ir, ur, or [əː]   →  

 service, dessert, circle, girl, curve, U-turn, world, work

 サービス、デザート、サークル、ガール、カーブ、Uターン、ワールド、ワー

 비스, 디트, 클, , 브, 유, 드,

 

日本語で「ア」になる u, o, ou [ʌ]   →    

 bus, club, muffler, cover, love letter, one-room, touch, double, young

 ス、クブ、フラー、バー、ブレター、ンルーム、ッチ, ブル, ング

 스, 클, 플러, 버, 브레터, 룸, 치, 블,

 

 日本語が「キャ」「ギャ」となっている場合は、それは上記 [æ] の母音を含む [kæ] [gæ] を模したものですので、韓国語ではそれぞれ 캐, 개 に対応する事も注意しておきましょう。
 一点だけ、最後の「日本語で「ア」になる o」に関しては、例外として一応知っておいて頂きたいパターンがあります。以下の二重母音「アウ」のケースです。

 

日本語で「アイ」になる i, y [ai]   →   ㅏ이

 time, file, sign, line, rice, dryer, spy, fry

 タイム、ファイル、サイン、ライン、ライス、ドライヤー、スパイ、フライ

 타임, 파일, 사인, 라인, 라이스, 드라이어, 스파이, 프라이

 

日本語で「アウ」(アw)になる ou, ow [au]   →   ㅏ우

 out, house, blouse, download, shower, tower, rush hour

 アウト, ハウス, ブラウス, ダウンロード, シャワー, タワー, ラッシュアワ

 아웃, 하우스, 블라우스, 다운로드, 샤워, 타워, 러시아워

 

これは「ア」の話じゃなくて二重母音「アイ」「アウ」の話なので、本当は「例外」というよりは「別物」なのですが…。ここではペアとなる二重母音「アイ」「アウ」のケースを一緒に並べておきました。韓国語との対応規則は、日本語話者にも分かりやすいのでそれほど意識する必要は無いでしょう。
 余談ですが、英語の発音体系上、「ペア」となっているこれらの二重母音「アイ」と「アウ」ですが、英語のスペル(i, y や ou, ow)からはなかなか「ペア」である事がわかりにくいですね。英語のスペルは歴史的な様々な理由のせいで不規則性が高く、原理を理解するのが大変です。実はこれらの二重母音「アイ」「アウ」は、もともと15世紀初頭まで「イー」「ウー」[iː][uː]と発音していて、それを i, y や ou, ow と書いていたのですが、その後数百年かけて徐々に「アイ」「アウ」[ai][au]に変化しました。つまり、現代英語のou, ow はあくまで全体として「アウ」と読む二重母音なのであって、別にo単独で「ア」と読んでいるわけではないという事です。このような話に興味のある方は、ぜひ英語の「大母音推移(Great Vowel Shift)」について検索して見て下さい。英語のスペルの謎を解く重要なカギの一つです。
 さて話を戻しまして、とりあえず最初に紹介した4つの「英語の発音(スペル)と韓国語の母音の対応規則」をぜひ頭に入れておきましょう、というのが今回のお話のポイントでした。まずはこれを知っているだけで、かなり語形が予想できるようになるはずです。皆さんの知っている単語でぜひ確認してみて下さい。

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著者略歴

  1. 河崎啓剛(かわさき・けいごう)

    東京大学大学院総合文化研究科准教授。東京大学教養学部超域文化科学科言語情報科学分科卒業。ソウル大学校大学院国語国文学科博士課程修了。文学博士。崇実大学校日語日文学科(韓国ソウル)助教授、帝京大学外国語学部講師を経て、現職。専門は言語学、韓国語学、韓国語史、日韓対照言語学。著書に『中世韓国語感動法とは何か』(原題は韓国語)(韓国京畿道:新丘文化社、2017年)など。

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