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「韓国語の単語はこう覚える~外来語編~」河崎啓剛

第4回 英語の「母音弱化」(1)

 今回は、英語の「母音弱化」のお話です。ご存知の通り、英単語にはアクセント(強勢)があります。英語の勉強で、アクセントの位置を一生懸命覚えた記憶のある方も多いかと思います。英語ではアクセントのある音節の母音は強く、長く、明瞭に発音されるのですが、アクセントの無い音節の母音は弱く、短く、不明瞭に発音されます。その結果、多くの「アクセントの無い音節」の発音が、結局前回お話した曖昧母音[ə]として発音される事になります。英語の辞書の発音記号を、ぜひ確認してみて下さい。

 以下の単語を見てみましょう。アクセントの位置を「´」で示してあります。

 

アクセントが無い音節での弱化母音 [ə] →

  bálance, mánual, sálad, díet, túnnel, compúter, bádminton

  バンス、マニュル、サダ、ダイット、トンル、ンピューター、バドミン

  밸스, 매뉴, 샐드, 다이트, 터, 퓨터, 배드민

 

 韓国語の外来語は、この弱化した曖昧母音[ə]を、ちゃんとそれに対応する ㅓ で受け入れています。英語の発音を本当に聞こえるまま、できるだけ正確に写し取ろうとしているわけですね。この弱化した曖昧母音[ə]は、2音節以上の英単語ではかなり高頻度で現れますので、是非英単語の「アクセントの位置」を意識しつつ韓国語の語形を覚えましょう。英語の発音に自信が無い方も、逆に韓国語の語形を覚える中で、英語のアクセントの位置や正確な発音を一緒に覚えていくのもアリではないでしょうか。英語の balance(バランス)が韓国語では「밸런스」となる事を意識して、それに寄せて発音すれば、英語本来の発音 [bǽləns] に近く発音する事ができるはずです。ただし、寄せ過ぎたら「韓国式英語」になってしまいますのでほどほどに。

 

 一方で日本語の外来語では、「文字の本来の音」を重視していたり(a, i, u, e, o = ア、イ、ウ、エ、オ)、曖昧母音[ə]にぴったり合う適切な母音が無かったりといった理由で、英語の「母音の弱化」は基本的に反映されませんね。

 余談ですが、日本語にも、かつて文字など見ずに「聞いたまま」受け入れた英語由来の外来語が多少はあります。例えば、「ミシン」は machine [məʃíːn](マシン)から、「ラムネ」は lemonade [lèmənéid](レモネード)から、「メリケン」は American [əmérikən](アメリカン)から、ヘボン式ローマ字の「ヘボン」は幕末に来日したアメリカ人宣教師・医師の Hepburn[hé(p)bə(ː)n](ヘップバーン)さんから来ているという話はご存知でしょうか。machine の ma が「ミ」になったり、lemon の mo が「ム」になったり、American の A が消えていたりと、英語の弱化した母音、曖昧母音 [ə] の聞こえが、さまざまな形に反映されている点が特徴的ですね。

 

 そういえば、筆者は英語を習いたての頃、learn[ləːn](学ぶ)の事を、聞いたまま日本語で「ルーン」と呼んでいました。授業中に同級生に「ラーンでしょ」とツッコまれ、「え、でもルーンじゃん」という問答を2,3回繰り返したあと、先生が「正確にはどっちでもないんだけど、一応ラーンという事になってる」と仰ってしぶしぶ引き下がったような記憶があります。それ以来、一応私にも「ラーン」に聞こえます。

 英語の曖昧母音[ə]を皆さんが「ア」だと思うのは、もしかしたら実はかなり無意識に「慣習や予備知識」に引っ張られているのかもしれません。

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著者略歴

  1. 河崎啓剛(かわさき・けいごう)

    東京大学大学院総合文化研究科准教授。東京大学教養学部超域文化科学科言語情報科学分科卒業。ソウル大学校大学院国語国文学科博士課程修了。文学博士。崇実大学校日語日文学科(韓国ソウル)助教授、帝京大学外国語学部講師を経て、現職。専門は言語学、韓国語学、韓国語史、日韓対照言語学。著書に『中世韓国語感動法とは何か』(原題は韓国語)(韓国京畿道:新丘文化社、2017年)など。

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