第7回 子音の対応規則(2)
今回のお話は、前回のお話の「補足」です。知らなくても韓国語の学習には困りませんが、前回紹介した対応規則が「なぜそうなるのか」まで気になる人のために、少し解説しておきましょう。
◆ f → ㅍ のお話
韓国語には f の音がありませんね。日本語の場合は「はひふへほ」のうち「ふ」だけが hu ではなく fuに近い音(正確にはɸu)で発音されますので、その「ふ」の子音を利用して「ファ、フィ、フ、フェ、フォ」がわりと簡単に作れるのですが、韓国語ではそういう事もできませんので、1しかたなく「fに近い音」で受け入れるしかありません。そしてその「近い音」が、なんと ㅍ[pʰ] になるわけです。
ちなみに日本語でも少し年季の入った外来語だと、セロハン(cellophane)、コーヒー(coffee)、イヤホン(earphone)、アルミホイル(aluminum foil)… といった具合に、まだ f の音に慣れていない時代に「近い音」で代替していた時代がありましたが、fに近い音として、むしろ h で受け入れられています。不思議だと思いませんか。韓国語にだって ㅎ[h] はあるし、日本語にだって「パピプペポ」のp音はあるのに、韓国語の耳では f は ㅍ[pʰ]に近いと判断され、日本語の耳ではむしろ h に近いと判断された、というわけです。不思議ですね。
ところで、日本語の h 、つまり「ハ行」の子音は元来は p音で、その後戦国時代くらいまでは fで発音され、江戸時代初期に(「標準語」では)今のような h になったと言われています。「ふ」だけは h にならず未だに fu(ɸu)のままですが。しかし、今でも琉球語(沖縄方言)の一部地域では、「ハ行」が p音 や f音 で発音されています。つまり、例えば「花(はな)」の発音は 「パナ」>「ファナ」>「ハナ」 という変化の歴史をたどったわけですが、このように方言によっては、21世紀の今もなお「パナ」や「ファナ」という語形が現役で使われているわけです。日本語が西洋言語の f の発音に初めて出会った頃、「ハ行」の発音が各地の方言でどうだったのか、その詳細を知る事は容易ではありませんが、西洋言語の f 音を「ハ行」の一種だと聞く「慣習」は、もしかしたらこういった日本語の発音の歴史と関係して形成されたのかもしれません。
さて、話を「規則」に戻しましょう。実はこの f → ㅍ の規則は、以下の v → ㅂ の規則とペアの規則です。日本語話者にとっては特に意識するまでもない規則なので、ごちゃごちゃすると良くないので前回は省きました。
v → ㅂ
level, violin, vanilla, interview, driver, Valentine's Day
レベル、バイオリン、バニラ、インタビュー、ドライバー、バレンタインデー
레벨, 바이올린, 바닐라, 인터뷰, 드라이버, 발렌타인데이
つまり韓国語では英語の p, f が区別されず共に ㅍ に対応し、それらが濁ったb, v が区別されず共に ㅂ に対応するという非常にシンプルな対応関係になっています。b と v は「似た音」だと言って「バ行」でまとめてしまうくせに、p と f は「全然違う!」と感じて区別する日本語の方がよっぽどヘンかもしれません。
まあ、「サ」と「シャ」は区別するくせに「ザ」と「ジャ」は区別しない韓国語もお互い様ですので、あまり気にしないで下さい。
1 念のため確認しておきますと、韓国語の「후」は英語の Who are you?の whoと同じで [hu] であって日本語の「ふ」[fu]( ɸu)とは全然違いますので気をつけましょう。[hu]は、唇を使わず、あくまで「ハ・ヘ・ホ」と同じ子音 h で「ホゥー」とやります。What? が「ファッ?」[fɑt]じゃなくて「ホァッ?」[hwɑt]なのと同じです。