2026年フランス文学賞発表を待ちながら 榎本恵美
秋も深まるころに、フランス文学賞の発表が始まります。
フランスで最も権威があり、最も注目される文学賞がゴンクール賞です。作家のエドモン・ド・ゴンクールが弟のジュールを偲んで創設したもので、その年に刊行された最高の散文(主に小説)に贈られます。1903年に創設され123年の歴史がある賞で、著名な作家10名で構成されるアカデミー・ゴンクール選考委員によって選出されます。受賞作発表の当日には、パリ2区にあるレストランDrouantより生中継が行われ、メディア報道も賑わいます。賞金の小切手の額面は、わずか10ユーロ。受賞作がもたらす経済効果は絶大であるため、賞金額はあくまで象徴的な数字となっています。
ゴンクール賞のほかに注目される賞として、まずルノドー賞が挙げられます。フランス最古の新聞『ラ・ガゼット』を創刊したことで知られるジャーナリストのテオフラスト・ルノドーにちなんで名付けられた賞で、ゴンクール賞よりもオリジナル性が強く、挑戦的な作品が選ばれる傾向があります。
さらに、男性中心だった文学界に対抗して、女性の選考委員のみによって選出されるフェミナ賞、フェミナ賞とは対照的な構造を持つ、男性のジャーナリストで構成され、ジャーナリスティックな視点を持つ作品に贈られるアンテラリエ賞、前衛的な作品や新進気鋭の著者に光を当てるメディシス賞があります。また、アカデミー・フランセーズ小説大賞は、正統派の作品が好まれ、文学賞シーズンの幕開けを告げるべく、最も早く発表されます。
主要な文学賞に加えて、少し異色な賞もご紹介しておきましょう。「受刑者が選ぶゴンクール賞」は、2022年にアカデミー・ゴンクールとフランス国立書籍センター(CNL)が司法省と連携して創設した賞です。服役中の人々が文学や文化活動に積極的に参加できる仕組みとなっており、人権の国フランスらしい取り組みと言えます。毎年500名以上の受刑者が選考に携わり審査を行いますが、排他的な社会から疎外されて生きてきた人々に光を当てた作品が選ばれている印象を受けます。
もう一つ追記しておきたいのが、現場で日々読者に接している独立系書店の書店員たちの直接投票によって選出される「書店員賞」です。商業的なプロモーションや知名度にとらわれず、書店員が心から読者に勧めたい真の良作を掘り起こすことに重きを置いており、秋の文学賞とは時期をずらした春に毎年発表されます。2020年には、水林章氏のÂme briséeが受賞したことでも話題となりました。
日本ではまだ知名度がない作品であっても、これらの賞を受賞することで翻訳が出版されるきっかけとなります。フランス社会の今を映し出す旬な作品を翻訳で楽しむのはもちろん、著者が選んだ語彙や表現をぜひ原書でも味わってみてください。(えのもと・えみ=書店Les Chats Pitres代表)



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