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「マンガ家デビューはフランスで」Kim Bedenne

第4回 マンガを片手に親子でブックフェアへ!

 マンガ大国フランスはそもそも文学大国。本は今でも、映画、ゲーム、音楽を上回る最大の文化的な市場で、様々なコンベンションがフランス全土で毎年行われています。マンガ関連のイベントの様子、またこの大事な交流の場がコロナ禍でどう変わったのか、Ki-oonのイベント担当レミ・ポンセRémi Poncetさんに話を聞きました。

─レミさん、主なイベントとその規模について教えてください。

 マンガ・アニメ・ゲーム関連のイベントの中で圧倒的に大きいのはジャパンエキスポ(来場者数25万人)です。次はパリマンガとトゥルーズゲームショー(どちらも7万人)ですが、他に中規模なイベントがフランス地方で増えています。一般的なイベントでは、パリのフェスティバル・デュ・リブル(=パリブックフェア)とパリ郊外、モントルイユの子供向けの本フェアが一番有名です。それぞれ毎年16~18万人が訪れる、首都周辺の重要なイベントです。また、「バンド・デシネ」を中心とするイベントもあります。毎年フランスの南西の町アングレームで開催されるこのフェスティバルは昔から人気があり、毎年20万人もの人がこの小さな街に集まります。

─マンガ関連イベント以外でのマンガの扱い方はどう変わってきましたか?

 若者の読者を増やす必要性に気づいたようです。彼らを読者として育てていかないと業界全体が困るからです。また、学校の遠足の場にもなるので、子供にアピールできるコンテンツが必要でした。つまり、ファンタジー小説とマンガです。パリブックフェアではマンガコーナーが設立され、マンガ関連のトークショーなどが行われるようになりました。アングレーム祭では、マンガ家に関する展示が増え、大友克洋や高橋留美子など有名なマンガ家への授賞も増えました。

 これには主催者側の世代交代の影響もあります。30~40代のいわゆる「クラブ・ド世代」(80~90年代の人気アニメ放送番組にちなんだ呼び名:本連載5月号参照)が責任者になれば、マンガに対する理解度が一気に上がります。

─出版社もイベントの責任者にマンガを理解してもらうように様々な工夫をしていると思いますが、レミさんはどういうふうに説得しますか?

 マンガに対する偏見を払拭するために、Ki-oonのラインナップは強い武器です。創立時から社会問題や歴史をテーマにした作品を多く出しているので、マンガファン以外にも興味を持ってもらえます。中央アジアの文化を描く『乙嫁語り』やラヴクラフト小説を原作にしたシリーズ、または身体障害者を主人公にした『聲の形』はそのいい例です。

 フランスでは家族でイベントに行くことも多いので、親や祖父母世代にマンガを紹介する醍醐味もあります。最初は「マンガ? そんなの大嫌いだよ!」と言われますが、説明をすれば何冊か購入して頂くことがよくあります。

 アングレーム祭もそういう意味で大切な場所です。バンド・デシネ業界は長年マンガに対して閉鎖的でしたが、その多様性に気付いてくれたバンド・デシネの読者もいます。谷口ジローの作品(『歩くひと』、『遥かな町へ』など)や田辺剛のラヴクラフトシリーズ、Ki-oonのオリジナル作品『Léviathan(レヴィアタン)』はマンガの世界への入り口になります。

─特に印象に残ったイベントがありますか?

 2019年のパリブックフェアで『図書館の大魔術師』の発表が忘れられません。ファンタジー冒険を通して、本の大切さを伝えてくれるこのマンガをイメージした巨大な図書館のブースを作ったのですが、老若男女を問わず多くの人に注目していただきました。こういう全世代を巻き込んだイベントが最高です。

─フランスではイベントに家族全員で行くことが多いですよね。

 よく家族の週末の遠足の場となりますね。マンガでも本を子供に読んでもらうのはいいことですから、読書を応援するために子供連れの親が多いです。

─コロナ禍でイベントが激減、どういう対策を考えましたか?

 自分でイベントを作るほかありませんでした。まず、2020年に最初のロックダウンが解除されると、Ki-oon summer tourを開始しました。トラックでフランスを一周しながら、様々な町の書店でイベント(VR体験、複製原画展、写真コーナーなど)を主催しました。イベントのブースほどの迫力はありませんが、パリ以外でファンと交流するいい機会でした。好評なのでこれからも続けるつもりです。

 もう一つは、Ki-oonポップアップストアの設営です。名前は「Antre éphémère アントル・エフェメール」、つまり「儚い洞窟」です。十日間、パリ中心部にイベントのブースを再現する形で、ゲーム体験、フィギュアや複製原画の展示、サイン会などを催しました。コロナ対策のルールに縛られ、人数制限を設けたものの、それでもファンのみなさんが何時間も行列で待ってくださるという大成功を収めました! 今年5月にもポップアップストアを行いますが、今度は倍の面積にします!

─やはり皆さんはイベントに飢えていますね! レミさん、ありがとうございました!

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キム・ブデン:Ki-oon東京オフィス代表 TWITTERアカウント@Kim_Ki_oon メール:mochikomi@ki-oon.com

◇初出=『ふらんす』2022年7月号

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著者略歴

  1. Kim Bedenne(キム・ブデン)

    編集者。講談社国際事業局、仏漫画出版社PIKAを経て2015年よりKi-oon在日オフィス代表

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