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「マンガ家デビューはフランスで」Kim Bedenne

第1回 フランスの漫画出版社Ki-oon

 芸術の国といえば、フランスが思い浮かぶでしょう。彫刻、映画、音楽…色々なカテゴリーがありますが、コミックは「第9の芸術」と定義されているのはご存知ですか?

 日本と同様、フランスは昔からコミック大国です。長年、バンド・デシネは圧倒的な地位を保ってきましたが、2020年から日本の漫画が販売部数の面では市場の大半を占めるようになりました。「ONE PIECE」や「NARUTO」、「進撃の巨人」、または「僕のヒーローアカデミア」や「呪術廻戦」など、日本のヒット作品はフランスでもベストセラーになっており、欧米最大の漫画市場と見なされています。つまり、芸術の国は漫画の国でもあります。

 この連載では、フランスはなぜそこまで日本の漫画文化に染まったのか、またはフランスの漫画文化の特徴や漫画を通して表現される社会現象や国民性について書いていきたいと思います。

 第1回ということで、私が働いている漫画専門出版社Ki-oonをご紹介しながら、フランスで刊行されている漫画はどういうルートで刊行されているのかについてご説明します。

 Ki-oonの刊行作品の多くは日本の出版社の作品のフランス語版です。フランス語版の版権を取得するライセンス形式で、「僕のヒーローアカデミア」、「呪術廻戦」、「乙嫁語り」、「ビースターズ」、「聲の形」など、多くの日本のヒット作品をフランス語で刊行し、現在市場の4位を占めています。

 しかし、Ki-oonの最大の特徴は、日本にオフィスを持った唯一のフランスの漫画出版社であり、日本人の漫画家と手を組み作品を制作していることです。さらに、日本の出版社にライセンスを許諾し、日本への漫画の逆輸入という珍しい仕組みもあるのです。

 2015年に実写映画化された「予告犯」という漫画を見たことがありますか? 「虎鶫 – Tsugumi Project」(講談社)や、「Lost Children」(秋田書店)を読んだことありますか?実はこれらはKi-oonのオリジナル作品なのです。


『予告犯』(筒井哲也)


『虎鶫 Tsugumi Project』(ippatu)


『Lost Children』(隅山巴文)

 Ki-oonは2003年にアメッド・アニュとセシール・プルナンが創立しました。二人とも漫画、アニメ、ゲームのファンでした。日本語も勉強しましたし、日本に住んだ経験もある二人は、日本の文化に関する知識と漫画に対する熱意から、大学卒業後に漫画出版社を立ち上げました。しかし、創立時には既にフランスの漫画業界は群雄割拠、新参者には厳しい状況でした。そこで、日本の出版社の信頼を得るために独自の手段を選びました。それは「日本人の作家と漫画を作ること」。日本の漫画を輸入するのではなく、日本の作家の作品をまずフランスで発売させるのです。当時は前代未聞のことでした。コミケまで足を運んだり、ウェブコミックのサイトを片っ端から確認したりし、新しい才能の発掘に励みました。そうして最初に生まれた作品が、たきざきまみやの「Element Line」と筒井哲也の「Duds Hunt」です。ちなみに、フランスには連載雑誌がないため、書き下ろしの単行本の刊行となります。

 この作戦が成功し、日本の出版社と取引を開始。その後も数多くのヒット作品を刊行し、著しく成長したKi-oonは、オリジナル作品の制作への注力を目的に2015年に東京オフィスを開きました。新人作家さんと生み出した新作をフランスで刊行するのが第一のステップです。それと並行し、アメリカ、日本、スペイン、ドイツなど、様々な国でライセンス事業を進めています。たとえば「予告犯」を始め、筒井哲也の作品は10ヶ国語以上で刊行されています。日本で16万部を突破した「虎鶫 –Tsugumi Project」は宝島社のランキング「このマンガがすごい!2022」(オトコ編)の20位に選ばれた人気作品になりました。「Beyond the Clouds」はフランスのみならず、多くの国でも注目されています。

 もうひとつ取り組んでいるのが、「Tremplin Ki-oon(トランプランキューン)」の開催です。二年に一回、フランス語圏限定の大規模漫画コンテストで、優勝者に漫画制作のチャンスを与えます。『Outlaw Players』と『Green Mechanic』はそこから誕生した漫画です。フォーマットや絵柄、キャラデザインなど、どう見ても日本の漫画と同じですが、描いているのはフランス語圏で生まれ育った作者です。漫画を読んで育った世代が個性のある作品を作る力を身につけてきました。それだけ漫画の文化が浸透したということです。

 フランスの漫画関連の展示会やイベントの参加者が年々増えているだけではなく、世代の幅も広くなっています。ヨーロッパ最大の漫画・アニメコンベンション「ジャパンエキスポ」に行くと、親子や祖母祖父と孫がブースを回る様子を見かけることが珍しくありません。フランスから見れば日本は遠い国ですが、漫画に描かれた人間は一緒です。同じ感動を共有し、同じ世界を生きています。漫画はフランスと日本をつなげる橋です。Ki-oonはその柱の一つとして今後も活動を続けたいと思います。

◉漫画企画を募集中です!
キム・ブデン:Ki-oon東京オフィス代表 TWITTERアカウント@Kim_Ki_oon メール:mochikomi@ki-oon.com

◇初出=『ふらんす』2022年4月号

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著者略歴

  1. Kim Bedenne(キム・ブデン)

    編集者。講談社国際事業局、仏漫画出版社PIKAを経て2015年よりKi-oon在日オフィス代表

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