第32回 クルーグマンの名言
"Asian growth, like that of the Soviet Union in its high-growth era, seems to be driven by extraordinary growth in inputs like labor and capital rather than by gains in efficiency."
Paul Krugman(1994)
ポール・クルーグマンは、現代で最も売れっ子の経済学者といっても過言ではない。大学も、MIT、スタンフォード、プリンストン、ニューヨーク市立大学と次々に移っている。師であったサムエルソンがMITから動かなかったのとは対照的である。
「アジアの成長は、高成長時代のソ連のそれと同じように、効率の増大というよりは、労働と資本のような投入量の異常な増大によって牽引されたように思われる。」
1990年代、東アジアの急成長が将来脅威となると騒がれていた頃(すぐ後で、その地域は金融危機に見舞われることになるが)、クルーグマンは「アジアの奇跡という神話」と題する論文を書いて、そのような脅威を一笑に付した。彼が用いたのはソローの「成長会計」というマクロ経済学では初歩的な分析手法である。経済成長の要因は、労働投入量や資本投入量の増大と、技術進歩(「全要素生産性」)に分解できるが、かつてソ連の急成長が脅威だと騒がれたときも、それは労働や資本の投入量の増大によるもので、技術進歩率はほとんど関係がなかった。そのような成長は長続きしないし、実際、その後ソ連は失速した。それと同じことが、東アジアの急成長についても当てはまるというのである。それゆえ、「アジアの奇跡という神話」だというのだ。
彼はいまではニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストとしても活躍する最も多忙な物書きの一人になっている。
Paul Krugman, “The Myth of Asia’s Miracle,” Foreign Affairs(November/December 1994)p.72.