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「TOKYOジャズスポット案内」キャサリン・ワトレー

第1回 高円寺Universounds

かつて日本中がジャズに熱狂した時代があったという。軍歌やドイツのクラシック音楽を聴き飽きていた若者たちは戦後、 自由な音楽に触れた。駐留米軍のためのFENラジオを聴き、特別な喫茶店に通い、新しい音を探した。これは東京に限った話ではない。日本各地にジャズ喫茶、レコードショップ、ライブハウスができたことで、誰でもジャズを聴く時代が訪れたのである。
60年代に入ると、アメリカやヨーロッパのジャズミュージシャンたちが頻繁に来日し始める。たとえばドラマーのアート・ブレイキーは1961年以後に10回来日し、40都道府県を巡った。

今でも日本はジャズの国であり、日本には特有のジャズ文化がある。飲食店のBGMにモダンジャズが流れているのはいたって当たり前のことである。ジャズのレコードやCDを売る店もまだまだ健在だし、ジャズに関する本も毎年のように出版されている。ジャズは日本人にとって、相変わらず特別な音楽だ。
私はこの連載で、東京のジャズスポットを訪ね、日本のジャズ文化を探ってみようと思う。

東京のジャズトレイン、中央線に乗る。大正時代から昭和初期にかけて、様々な文化人たちが、まだ賑わいを見せる前の中央線沿いに引っ越してきた。学生や芸術家たちが戦後、物価や家賃の安いこの沿線に住み始めると、音楽や演劇、アートが盛んになっていく。ジャズも中央線沿線に溢れた。西荻窪の「アケタの店」や高円寺の「JIROKICHI」は中央線沿いのジャズスポットの中では老舗として知られている。


Universounds入口

高円寺のPAL商店街にある建物の2階奥に、比較的新しい小さなジャズスポットがある。中古レコード店の「Universounds」だ。「大学を離れるとしたら、レコード以外は考えられなかった」と語る尾川雄介さんは2001年、博士課程の途中で大学を辞め、30歳でUniversoundsを始めた。尾川さんの活動はDJ、ライター、再発盤レコードの監修など多岐に渡る。「お客さんと、この店にあるもので旅に行く。紐を解いていく。それはすごく楽しい」。

Universoundsが扱うジャンルの一つに、比較的マイナーなスピリチュアル・ジャズがある。ジョン・コルトレーンやオーネット・コールマンといった著名なミュージシャンは60年代後半、次第にアバンギャルドでフリーな音楽を作り始めた。彼らのフリージャズから影響を受け、さらにフリーになり、西洋の音楽だけではなくインドやアフリカの音楽を取り入れたのが70年代のスピリチュアル・ジャズだ。スピリチュアル・ジャズ以外にも70年代のソウル、ファンク、フュージョン、さらに最近まで評価の低かった日本のジャズからも、尾川さんが大好きな音が集められる。店内にはUniversoundsならではの音楽が並んでいる。

大型の中古レコード店とは違って、Universoundsでは店主が一人、自分の感性と知識でレコードをセレクトしている。インターネットのおかげで音楽も音楽の情報も簡単に手に入る21世紀だからこそ、様々なジャンルを繋ぐことのできる尾川さんのような人の存在は重要だ。お客さんたちはUniversoundsに足を運び、尾川さんの感性に共鳴する。
どこにいてもオンラインで音楽が聴ける時代にもかかわらず、レコードというメディアが注目されるのはなぜだろうか。「レコードだから、物なんですよ。音楽は音楽だけれど、レコードは物でもあるから、やっぱり所有している。それはすごく大事だと思う。好きなレコードを所有している。聞くだけでよければ、ダウンロードやYouTubeでも聴けるし」。


店主の尾川雄介さん

「ずっとレコードを見てきた、いつもレコード屋に通っていた」と言う尾川さんのUniversoundsは国内外、様々な音楽に興味を持つ人々から注目されている。たとえば、レア・グルーヴに興味を持つ人々もやってくる。このジャンルはヒップホップカルチャーの世界的な流行を背景に、希少な、つまり「レア」なレコードをコレクションする習慣から現れたものだ。もちろん海外からのヒップホップ関係のお客さんも多い。「ヒップホップを作る人は、パーツ・パーツで音楽を聴く。『この曲がすごく好き』というのはもちろんあるけれど、ホーンの音が欲しいとか、グルーヴするベースラインが欲しいと言う人がいる。これでどうですか?と言って、ばーっと出して、『あっ、こんな感じ!』と言ってもらえるのが嬉しい」。

海外からのインターネット注文は以前からあったが、ここ6、7年は海外からの来客も増えている。「1日1組は海外からのお客さんです」。今やUniversoundsのお客さんは東京や日本の人々だけではなく、世界中にいる。海外からは、特に日本のジャズを聴きたがるお客さんが多い。「それぞれの音楽が自分の中にどういう風に入ってきて、自分の中でどういう風に収まっているかには、やっぱり物語がある」。Universoundsは東京ローカルのジャズスポットではない。世界のジャズスポットの1つだ。高円寺、中央線、東京、関東、日本そして世界のジャズファンにとって、そこは重要な場所なのだ。

■Universounds
住所 : 〒166-0003 東京都杉並区高円寺南 3-46-9 プラザU 202
電話 : 03-3314-5185
営業時間 : 14:00 - 20:00
定休日 : 水曜日
https://www.universounds.net/

*店舗情報は掲載時の情報です。

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著者略歴

  1. キャサリン・ワトレー(Katherine Whatley)

    ライター、翻訳家。
    サンフランシスコ生まれ、東京育ち。コロンビア大学で東アジア言語文化と民族音楽学を専攻。在学中に日本のジャズと20世紀の音楽に関心を持つ。現在は東京に戻り、箏の稽古に通うかたわら、新聞・雑誌へ日本の音楽・文化について執筆している。
    https://www.kwhatley.net/

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