第3回 寄り添う気持ちを表す
前回予告した通りChatGPTが得意とする「生成」のフィールドで話を進めよう。
AI(人工知能)が「人間の脳の役割を機械に代替させるもの」だと聞いて、「人間の代わりなどできるものか」とか「人間では到底及ばないデータの蓄積や処理が可能である」といった話になることが多いのではないだろうか。前者の立場では、人間の気持ちを機械が理解でるはずがないという考え方による意見なのだろう。
そこで、つらく悲しんでいる人にかける言葉をChatGPTにイタリア語で考えてもらうべく質問したところ、
つらく悲しんでいる人にかける言葉をいくつか挙げます。
1. "Mi dispiace molto per quello che stai passando." - 「あなたが経験していることにとても悲しく思います。」
2. "Capisco che sia molto difficile per te in questo momento." - 「この時点であなたにとってとても難しいと理解しています。」
3. "Siamo qui per te, se hai bisogno di aiuto." - 「あなたが助けが必要なら、私たちはここにいます。」
4. "Non sei solo/a in questo." - 「あなたは一人ではないです。」
5. "Ti vogliamo bene e ti sosterremo." - 「あなたを愛していて、支えます。」
以上の5つのフレーズを提案してくれた。対応する日本語訳も教えてくれており、いざフレーズを使う際の参考になる。④の例文の「solo/a」は相手が男性であれば「solo」、女性であれば「sola」であることを示している。イタリア語の文法を学習し始め、名詞の性・数と形容詞の語尾変化あたりまで学習が進んでいればこの使い分けは難なくこなせるはずだ。ただし、提示されたフレーズ「Non sei solo/a」をそのまま使ってしまっては「あなたの性別がわからないので選んでください」といった意味に取られてしまう可能性もある(もちろん、翻訳ソフトを使ってでもイタリア語で気持ちを伝えてくれたのだと受け取ってくれるだろうが)。
①のフレーズで使われている自動詞「dispiacere」には「残念である、遺憾である、悲しむ、心が痛む」といった意味があり、相手の悲しみに寄り添う気持ちを表す時の王道表現と言えるだろう。②のフレーズは主語が1人称単数「私」である表現で、「(私は)理解している」を意味する。ただ、相手の心中を完全に理解できたのではなく、相手にとって現状が厳しいものなのだろうと理解を示そうとする態度も伝わってくる。③と⑤では主語が1人称複数になることで「私たちはあなたと一緒だ」「私たちはあなたをサポートして行くよ」という具合に、相手が一人きりで苦しさや悲しみを背負っているのではなく、それらを可能な限りあなたから取り去ってあげたいという思いが伝わってくる。
これだけのフレーズを外国語学習者が自力で紡ぎ出すことは困難ではないかと筆者は思う。また、「目標を達成した友人へのお祝いの言葉」を尋ねたところ、「Sono così felice per te! Complimenti! あなたが成功したこと、とても嬉しいです。おめでとう!」や「Non c’è nulla che tu non possa fare. Continua così. あなたにできないことは何もありません。この調子で続けてください!」などのフレーズが示された。特に後者の「この調子で続けなさい」という表現は日本語ネイティヴにはなかなか出にくい言い方ではないだろうか。
とはいえ、借りてきたフレーズをそのまま使うのも悪くはないだろうが、これらのフレーズのニュアンスの違いをどう理解したうえで気持ちを伝えることができるのか。次回はこの問題について考えてみたい。