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「ChatGPTと語学学習」森田学

第1回 疑問を解決する

 あれよあれよという間に日々が過ぎ、新年度がスタートした。筆者は音楽大学で西洋音楽史や外国語の授業などを担当している教員で、毎年この時期、新しい学生との対面を楽しみにしている。コロナ感染症が完全に収束したわけではないが、新入生の表情がこころもち明るく見え、それが個人的な感覚によるものであっても嬉しい。
 昨今の教育現場ではICT教育の推進が声高にうたわれており、筆者も教育の質の向上を目指す限りにおいては大賛成である。ただし、ネット環境を整えることやタブレット端末を使うこと自体が目標になっているのではと思えることが少なからずあり、目的地を見失わないようにしたいものである。本連載では、いま大学でも話題になっている教育現場におけるChatGPT使用について外国語学習の観点から考えてみたい。
 対話型生成系AIがどのようにして開発されたのか、目標や課題についてはネット情報をわかりやすくまとめた記事や博識な専門家による論考にお任せしたい。というのも筆者はこの分野に明るくないからだ。音楽大学で西洋音楽史や外国語(イタリア語)を教える教員として、人間の生活や未来をより豊かなものにしようと開発されているテクノロジーにわれわれが奉仕するのではなく、臨機応変に使うための術(すべ)や使い方を考えてみよう、というのがこの連載での私のねらいである。ここではより高度な対話が可能な有料版ではなく、無償で利用可能なChatGPT3.5バージョンを使って考えていく。*1

 本連載では主にイタリア語学習にChatGPTを有効活用することが可能かどうか、可能であるとすればどのように活用できるのかを探りたい。
 単語とその意味を一対一で対応させて暗記することに慣れている初学者にとって動詞の使い分けは悩ましい問題となる。例えば、「知っている」を意味するsapereとconoscereをどのように使い分けるかをChatGPTに尋ねると以下のような答えが得られる。

「sapere」と「conoscere」は、いずれもイタリア語で「知る」という意味を持つ動詞ですが、微妙な違いがあります。
 まず、「sapere」は、ある知識や情報を持っていることを表します。つまり、あることを知っている状態を表します。例えば、「Io so parlare italiano」(私はイタリア語を話すことができる)という場合、話者はイタリア語を話すという知識を持っていることが示されます。
 一方、「conoscere」は、ある人や場所、物事に対して、親密に知り合いである、または経験している状態を表します。例えば、「Conosco la città di Roma molto bene」 (私はローマの町をよく知っています)という場合、話者はローマの町に対して、それを経験し、知り合っているという状態が示されます。
 簡単に言えば、「sapere」は知識を表し、「conoscere」は知り合いや経験を表します。
この違いを覚えることで、イタリア語で適切な単語を選ぶことができます。

同じ疑問について白水社の『プリーモ伊和辞典』を引いてみると、

ともに「知っている」という意味を持つが、用法が異なるので注意。
conoscere
「人やものを知っている」の意味で、あとには名詞を続ける。
Conosco il signor Rossi.
私はロッシさんを知っている。
Conosco questa chiesa.
私はこの教会を知っている。

sapere
(1)「事実やことがらを知っている」の意味で、あとには接続詞cheなどに導かせる節、または名詞を続ける。
So che il signor Rossi abita qui.
私はロッシさんがここに住んでいることを知っている。
So dove si trova questa chiesa.
私はこの教会がどこにあるか知っている。
Ieri ho saputo la notizia.
私は昨日そのニュースを知った。
(2)「やり方を知っている」の意味で、あとには不定詞を続ける。
So guidare.
私は車の運転ができる(運転の仕方を知っている)。

と出ている。AIに尋ねた場合のメリットとしては、気軽に質問でき、とりあえずの疑問解決にすぐに到達できるという点だと言える。ChatGPTが「正解を答えるとは限らない」ことはよく知られているが、この質問に対しては間違いを示してはいないが、2つの動詞の使い方の違いを学習者に提示したとは言い難い。つまり、後者の学習辞書が示している文法説明──名詞を続けるのか、接続詞cheなどに導かせる節もしくは名詞を続けるのか、不定詞を続ける場合にはどのような意味合いを持つのか、など──がない。学習者がイタリア語以外の外国語をすでにしっかり学んだ経験があればこの解説で十分理解できる。その一方で、必ずしもこの疑問を抱いた初学者がすぐさま辞書の「conoscere」の項を引き、解説部分を一読し、簡単に解決できるとは限らない。
 教師は学習者が抱えている疑問や問題がどこにあるのか、現時点においてどこまでの情報を提示することがより効果的な学習へとつながるのかをすでに考慮したうえで解説したり、練習問題を出したりしている。ここに人が人を対面で教えることの意義と難しさがあるとすれば、教師はこの力を高めることに常に努めなければならない。それと同時に、学習者側の意識を見逃してはならない。学習者がゲーム感覚で選択するクイズ形式のアプリ等で学ぶことだけに楽しさを見出したり、デバイス画面越しのチャットでのやり取りには反応できるが、学校の教室に座ることや集中して解説に耳を傾け、咀嚼して理解するといった営みには拒否反応が出てしまうといった場合、問題は深刻となるだろう。
 次回は「名詞の性」について考えてみたい。

*1 語学学習においては言語学習サービスDuolingoがOpenAIのGPT4を導入した「Duolingo Max」サービスが注目されている。

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著者略歴

  1. 森田学(もりた・まなぶ)

    昭和音楽大学准教授。専門は西洋音楽(特にイタリア声楽曲)の実践研究。主な著作に『イタリアのオペラと歌曲を知る12章』(編著:東京堂出版)、『イタリアの詩歌』(共著:三修社)、『イタリアの文化と日本』(共著:松籟社)、『イタリア語の世界を読む』(共著:白水社)、『解説がくわしいイタリア語入門』『イタリア語のルール』『イタリア語のドリル』(単著:白水社)などがある。

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