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【緊急寄稿】「アフガニスタンの混乱と地域情勢」第3回(全3回)髙橋博史(元駐アフガニスタン大使)

3.タリバーン政権と今後の見通し
 タリバーンが恐ろしい、生きていけない、と叫ぶアフガン人がいる。彼らはこうした事態を招いたのは国際社会であると非難する。自分たちがいかに悲惨な状況にあるかを訴え、国外脱出は自分たちの権利であるとさえ主張する。このような事態を生み出した原因についてはすでに述べたが、同時に、その腐敗や汚職を見逃したのもアフガン人自身であることを忘れてはならない。それだけではない、この汚職と腐敗にまみれた前政権に異議を申し立て、力ずくで政権を奪取し、アフガン人が恐れを抱くタリバーンも、またアフガン人自身なのである。
 再び政権を奪取したタリバーンが、今後どのような政権を構築しようとしているのかは不明である。しかし、二期目のタリバーン政権が、一期目のタリバーン政権と異なっているのは明らかである。
 あの頑迷固陋としか言いようのない、古色蒼然とした考え方は姿を消した。写真を撮ること、撮られることが、イスラームの教えに反する。生き物の写真を撮ることすら、禁止し、罰していたタリバーンは見当たらない。今や、ハイバトゥラー・タリバーン最高指導者の顔写真ですら容易に見ることができる。こうした事実から見る限り、現在のタリバーン指導部は一期目のタリバーン政権とは大きく異なっている。実際にこれが政策レベルで、どの程度反映されていくのかについては、今後の政権運営から判断していくほかはない。
 アフガニスタンは中央アジア、インド亜大陸さらに、中東という地域の結節点に位置する。結節点は他の地域からの影響を受けやすいが、影響を与えるという地理的特徴も有する。2001年の米同時多発テロ事件以前のタリバーンは明らかに中央アジアに対する脅威として存在した。
 今般、その結節点であるアフガニスタンに、再び出現したタリバーンは何を意味するのか。以前のタリバーンのように中央アジアを席巻するとは主張していない。テロの輸出をしないことも公言している。近隣諸国との友好に努めようとしているように見える。これまでのタリバーンとはまったく異なったアプローチがとられているように思われる。
 他方、タリバーンの出現はインドにとって手痛い失策となった。なぜなら、ガニー政権崩壊直前まで、アフガニスタンではインド、パキスタンによる熾烈なヘゲモニー争いが演じられていた。パキスタンの支援を受けたタリバーンがアフガニスタンに政権を樹立した結果、インドはアフガニスタンに対する影響力を大きく減じることになった。明白なことは、タリバーンが出現したことにより、パキスタンのこの地域における影響力がこれまで以上に拡大したことは確実である。

(2021年9月6日) 了

<第1回 ガニー大統領の逃亡 <第2回 アフガニスタン情勢の見通しの甘さ

【執筆者略歴】
髙橋博史(たかはし・ひろし)
元駐アフガニスタン大使、拓殖大学海外事情研究所客員教授。著書『破綻の戦略――アフガニスタン現代史(仮題)』を白水社より2021年11月刊行予定。

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