白水社のwebマガジン

MENU

[座談会]三浦信孝・福井憲彦・三谷博「革命とは何か?」第2回

<第1回

「大西洋革命」と「独立」の意味

福井 セルナさんの論考で印象的なのは、これまでフランス革命は自己完結の革命と考えられがちだったのが、イギリス革命からの流れや「大西洋革命」の中のフランス革命と位置付けて考え直そうとしている点です。これは僕らには当たり前で、世界史の中でフランス革命を単体で考えるということはなかったけれど、案外フランスではそれが行われていて国内の問題として考えていた。それに対して、セルナさんは革命はすべて独立の問題だという。干渉戦争の問題、内乱・内戦の問題を重視するがゆえに、フランスだけの問題ではなく全体の問題として膨らんできている。それが強く出ている。もうひとつは、植民地の問題です。フランスの歴史家は、植民地問題をまっとうに対象化してこなかった。その問題をフランス革命史研究の中で引き受けようとしている。人道に対する罪という概念ですね。もちろん実態としては実現してない。けれど革命が普遍的な理念を掲げたことは重要だと思う。そういう点に留意するスタンスは非常にいいなと思いました。

三谷 普遍的人権の重要性は無論否定しません。しかし、フランス革命は孤立したものでなく、外国との繫がりの中で起きたという話は、なにもセルナさんが言い始めたことではなく、二〇一〇年にアムステルダムの国際歴史学会で、あのリン・ハントも語った。文化史研究者のはずなのにとみんな仰天してましたよ。ですからセルナさんの説はオリジナルではないですが、フランス本国でもそうした変化が起きたということはたいへん重要です。

福井 大西洋世界に革命を位置付けるという考え方は実は一九五〇年代からあるんです。アメリカのロバート・パーマーという歴史家が言い出したんですが、フランスではなかなか受け入れられなかった。それがいまはようやく一つの検討の枠組みとして捉えられつつある。

三浦 「大西洋革命」という考えはパーマーが言い出したんですか? つまりフランスの歴史家ではなく、アングロサクソンの歴史家の打ち出した概念ですか?

福井 パーマー自身は自分の著書でデモクラティック・レボリューションと言っています。民主主義革命ですね。

三浦 フランスで文学系の友人と議論したとき「大西洋革命」という言葉を先方は知りませんでした。そしたら「太平洋革命」はあるのかと逆に聞かれました(笑)。たしかに東アジアではまず明治維新があり、その約四十年後に辛亥革命が起こります。そういう発想はフランスの歴史家にはないようですね。

福井 東アジア革命とか言えるのかね。

三谷 山室信一さんの「思想連鎖」のお仕事を思い浮かべましたが、革命についてはどうか……。

三浦 セルナさんを擁護すると、彼は、フランス革命は「大西洋革命」の連鎖の中で捉えなければならないとはっきり書いています。フランスのフランス革命史家は、この考えをなかなか認めなかったとも。フランス革命はあくまで極めて例外的な独自の革命だと考えていた革命史家が多く、彼はそれを批判する。そこは認めなければなりません。ただし、そのワールドワイドな視点を彼はアジアにまでは広げていないとは言えると思う。もう一点、植民地の問題について、セルナさんが非常に強調しているのは、一九五四年にアルジェリア戦争が始まって、六二年に独立したわけですが、アルジェリアの独立戦争をフランスはずっと公には認めておらず、一九九九年に国会で法律を改正してやっとあれは独立戦争だったと認めたんだということ。アルジェリアの独立戦争を描いた映画「アルジェの戦い」(一九六六 年)も上映禁止になっていました。フランス革命はフランス人民の王政支配からの独立革命だったというのが彼のテーゼだけど、なぜそう認められなかったかというと、アルジェリア戦争を独立戦争だったと認めたくないフランス人のトラウマが邪魔しているんだ、と。第二次大戦後起こった植民地の独立戦争を認めまいとする心性が、アルジェリアの独立後もあった。アルジェリア戦争中からピエール・ヴィダル=ナケのような歴史家が問題にしていた拷問の問題も一九九〇年代末までタブーになっていた。それを引き合いに出しながら、彼はフランス革命を奴隷制の廃止やハイチの独立と合わせて考える。現在までフランス革命が続いているという発想にはこうした背景がある。

三谷 もちろんそこは評価すべきだけれど、アルジェリアだけでなくベトナムのことも考えるべきです。

>第3回

◇初出=『フランス革命と明治維新』三浦信孝、福井憲彦編著

タグ

関連書籍

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年5月号

ふらんす 2024年5月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる