白水社のwebマガジン

MENU

特集「フランス映画祭2018レポート」

『ふらんす』2018年9月号から、特集の一部をご紹介します。

----------------------------------------------------------------------------------------------------------
フランス映画の最新作をいち早く観られる、
今年26回目を迎えた「フランス映画祭」の模様をお届けします。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------

横浜にフランス映画祭が帰ってきた !

 1993年から2005年まで「横浜フランス映画祭」として親しまれ、翌年から都内に会場を移した「フランス映画祭」が13年ぶりに横浜で開催され、2018年6月21日から24日まで4日間にわたり、みなとみらい地区を熱く彩った(主催ユニフランス)。

 ラブストーリー、ヒューマンドラマ、アクション、心理サスペンス、ロードムービー、アニメーションなど多種多彩な最新長編14作(うち1 作は短編1 作とカップリング上映。上演作一覧は本ページ下記)が集められ、監督、プロデューサー、俳優ら15名のフランス代表団が来日を果たした。彼らを率いたのは、ゴダール、トリュフォーら伝説的な監督たちに愛されてきた女優ナタリー・バイだ。2013年以来3度目の団長を務めた。本映画祭ではエマニュエル・ドゥヴォスと共演したサスペンス長編『モカ色の車』と、娘ローラ・スメットが監督した短編『トマ』の2 本が上映された。


前列左から、ローラン・ピック駐日仏大使、林文子横浜市長、ナタリー・バイ氏、常盤貴子氏、カルロス・ゴーン氏

 日本側の代表としてフェスティバル・ミューズを務めたのは、NHK Eテレ「旅するフランス語」に出演中で横浜生まれの女優、常盤貴子だ。オープニングセレモニーに先立つレッドカーペットイベントでは、爽やかな白とグリーンの和装姿の常盤貴子が、セレモニー会場となった横浜みなとみらいホールのエントランス前に立ち、「映画祭が横浜で開催されてとても嬉しく思います」とフランス語でコメントを披露しゲストを出迎えた。


レッド・カーペットに最初に登場した、フェスティバル・ミューズの常盤貴子さん

 車からレッドカーペッドに降り立つや、沿道のファンからひときわ大きな拍手と歓声が上がったのは、団長のナタリー・バイ、日本での上映作品が多く、本映画祭では双子の精神分析医とヒロインの背徳の愛を描いた『2重螺旋(らせん)の恋人』を提げて来日したフランソワ・オゾン監督、2012年上映の大ヒット作『最強のふたり』の記憶がいまだ新しい仲良しコンビ、エリック・トレダノ& オリヴィエ・ナカシュ監督だ。ベテランのウェディングプランナーが予想外の事態に右往左往する両監督の最新作『セラヴィ!』は、この晩、オープニング作品として上映された。また、華やかなゲストの中でひときわ目を引いたのが、ジュリー・ガイエである。フランソワ・オランド大統領との交際報道でご記憶の方もいるかもしれない女優は、『顔たち、ところどころ』のプロデューサーとして来日。共に来日を果たせなかった監督・主演のアニエス・ヴァルダとJR の等身大パネルを両手に携えて登場した。ブロンドの長身にエレガントな赤いワンピースをまとった彼女が、おどけた表情で彼ら・・とポーズをとるチャーミングな姿は、詰めかけた報道陣と観客に明るい笑いを振りまいた。


アニエス・ヴァルダとJRの等身大パネルを携えて登場したジュリー・ガイエ氏

 屋内に移動して行われたオープニングセレモニーでは、満員御礼、1200人収容の会場から割れんばかりの拍手が送られる中、来日ゲストらがステージに集合。団長のナタリー・バイは、「またここに戻ってくることができて喜びで胸がいっぱいです。15年前の初来日時に来たのも横浜でした」と興奮気味に挨拶した。


オープニング・セレモニーで挨拶をするナタリー・バイ団長

 それに続いて現れたのは、スペシャルゲストの是枝裕和監督だ。本映画祭に先立つこと1か月、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭のパルムドールに輝いた是枝監督は、「僕の尊敬するフランスの映画人、またこの映画祭を支えている人たちと同じステージに立てて本当に光栄です」とコメントした。なお、日仏合作となる監督の新作映画は、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュらを出演者に迎えてフランスで撮影を予定している。


特別ゲスト、是枝裕和監督

 セレモニー後半では、ミシェル・ゴンドリー監督作品のサウンドトラック制作をはじめ、世界の名だたる監督に楽曲を提供するジャズピアニスト、ジャン=ミシェル・ベルナールが演奏を披露。オープニング上映のトレダノ& ナカシュ監督がふたたびステージに現れると、おぼえたての日本語「アイシテル!」を連発して会場を沸かせ、フランス映画祭2018のセレモニーは和やかなムードで終了した。なお、両監督作『セラヴィ!』は、映画祭期間中の観客の投票によって選ばれるエールフランス観客賞を獲得した。

[…]

(続きは『ふらんす』2018年9月号をご覧ください)

取材・文:丸山有美

----------------------------------------------------------------------------------------------------------

伝説の女優、ナタリー・バイが語る

トリュフォー監督やゴダール監督などフランスを代表する巨匠の作品や、近年では気鋭のグザヴィエ・ドラン監督の作品などに出演し、世界の映画祭で数々の賞を受賞してきたナタリー・バイ。今回、フランス映画祭の団長として3度目の来日を果たしたバイが、早稲田大学のマスタークラスで学生たちを前に女優人生を振り返った。 (聞き手:土田環)

これまで100本以上の作品にクレジットされている、長いキャリアを持つ女優でいらっしゃいますが、オファーが途切れる恐怖を感じたことはありますか?

もちろん。この仕事はそもそも人から望まれて、つまり他者の欲望があってこそのものですから。私はまずバレエを習い、その後、演劇の道に進みましたが、こうした世界ではどんなに自分が望んでも、実際に選ばれる人はごく一部です。

最初にバレエを始めたということですが、幼い頃から女優になりたいと思っていたのですか?

女優になりたいとは思っていませんでした。実は、読み書きと算数がとくに苦手で学校の勉強にあまりついていけなかったのですが、両親が何か別のことをとクラシック・バレエを勧めてくれたのです。それが私にはぴったりでした。そして、ニューヨークにバレエ留学をしました。その後、フランスに戻ってきてバレエ仲間について軽い気持ちで演劇学校を覗いたのですが、今度はバレエやダンス以上にこれだ、と思ったのです。私にとってはまず何よりバレエを習ったことが重要でした。バレエは厳密さや規律を要します。私はバレエの規律によって、忍耐や厳密さといったものを身に付けることができたと思っています。若い俳優たちは、フランスでは特にそうかもしれませんが、十分な努力をしているとは思えません。規律が重んじられていないと感じています。

当時すでに巨匠だったロバート・ワイズ監督の『ふたり』(1972)でデビューされました。当時のことで印象に残っていることはありますか?

ワイズ監督の『ウエスト・サイド物語』は観ていましたが、実はそれが監督の作品だとは知りませんでした。おかげで意識せずにすみましたが……。ピーター・フォンダが主演で彼が恋に落ちる女の子の役だったのですが、そのイメージに合わせるために、たった1 日の撮影のために髪をプラチナ・ブロンドに染められてしまいました。

次にフランソワ・トリュフォーの『映画に愛をこめて アメリカの夜』(1973)ではスクリプター(記録係)の役を演じられました。これはオーディションだったのですか?

ええ。トリュフォーのスクリプターから助監督になったシュザンヌ・シフマンから声をかけられて、まず監督に会いました。その時は雑談だけで「君はイメージじゃないなあ。でもとりあえず明日また来て。本読みをしよう」と言われ、翌日出直しました。すると「うん、君だ! でも、ちょっと待って」と言って隣の部屋に行き、秘書からあのヒドイ眼鏡を借りて来て、かけるように指示されました。ショックでした(笑)。

[…]

(続きは『ふらんす』2018年9月号をご覧ください)

----------------------------------------------------------------------------------------------------------

上映作品一覧

【オープニング作品】
セラヴィ!
Le Sens de la Fête


© 2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIECINEMATOGRAPHIQUE

監督:エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ
出演:ジャン= ピエール・バクリ
配給:パルコ
7月6日より全国順次公開中
公式サイト http://cestlavie-movie.jp/
>中条志穂「イチ推しフランス映画」 


REVENGE リベンジ
Revenge


© 2017 M.E.S. PRODUCTIONS - MONKEY PACK FILMS - CHARADES - LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY - UMEDIA

監督:コラリー・ファルジャ
出演:マチルダ・ルッツ、ケヴィン・ヤンセンス、ヴァンサン・コロンブ
配給:アルバトロス・フィルム
7月7日より全国順次公開中
公式サイト http://revenge-movie.net/

 

グッバイ・ゴダール!
Le Redoutable


© LES COMPAGNONS DU CINÉMA – LA CLASSE AMÉRICAINE – STUDIOCANAL – FRANCE 3

監督:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ルイ・ガレル、ステイシー・マーティン、ベレニス・ベジョ
配給:ギャガ
7月13月より全国順次公開中
公式サイト https://gaga.ne.jp/goodby-g/
>中条志穂「イチ推しフランス映画」


子どもが教えてくれたこと
Et les Mistrals gagnants


© Incognita Films - TF1 Droits Audiovisuels

監督:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
出演:アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル
配給:ドマ
7月14日より全国順次公開中
公式サイト http://kodomo-oshiete.com/

 
2重螺旋(らせん)の恋人
L’amant Double


© 2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

監督:フランソワ・オゾン
出演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット
配給:キノフィルムズ
8月4日より全国順次公開中
公式サイト https://nijurasen-koibito.com/

 
顔たち、ところどころ
Visages, Villages


© Agnès Varda - JR - Ciné-Tamaris - Social Animals 2016

監督・出演:アニエス・ヴァルダ& JR
配給:アップリンク
9月15日より全国順次公開
公式サイト http://www.uplink.co.jp/kaotachi/
>中条志穂「イチ推しフランス映画」 


CUSTODY /カストディ
Jusqu’à la garde


© 2016 - KG Productions – France 3 Cinéma

監督:グザヴィエ・ルグラン
出演:ドゥニ・メノーシェ、レア・ドリュケール、トーマス・ジオリア
配給:アンプラグド
2019年1月より全国順次公開予定

 

Memoir of Pain(英題)
La Douleur

© 2017 LES FILMS DU POISSON - CINEFRANCE - FRANCE 3 CINEMA - VERSUS PRODUCTION - NEED PRODUCTIONS

監督:エマニュエル・フィンケル
出演:メラニー・ティエリー、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ
配給:ハーク
2019年2月より全国順次公開予定


See You Up There(英題)
Au Revoir Là-haut


© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA

監督:アルベール・デュポンテル
出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート、アルベール・デュポンテル
配給:キノフィルムズ
2019年全国順次公開予定

 

モカ色の車
Moka


© Pyramide Distribution

監督:フレデリック・メルムー
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、ナタリー・バイ
[同時上映]短編「トマ Thomas」監督:ローラ・スメット/出演:ナタリー・バイ

 
ブラッディ・ミルク
Petit Paysan


© 2017 M.E.S. PRODUCTIONS - MONKEY PACK FILMS - CHARADES - LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY - UMEDIA

監督:ユベール・シャルエル
出演:スワン・アルロー、サラ・ジロドー、ブーリ・ランネール、イザベル・カンディエ


マルヴィン、あるいは素晴らしい教育
Marvin ou la belle éducation


© 2017 LES FILMS DU POISSON - CINEFRANCE - FRANCE 3 CINEMA - VERSUS PRODUCTION - NEED PRODUCTIONS

監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:フィネガン・オールドフィールド、ヴァンサン・マケーニュ、イザベル・ユペール


*他に、アニメーション「とてもいじわるなキツネと仲間たち」とTo the Ends of the World(英題)の計14作

----------------------------------------------------------------------------------------------------------

『ふらんす』2018年9月号では、フランス映画祭2018レポート、「伝説の女優、ナタリー・バイが語る」全文の他、「フランス映画界を牽引する若手俳優、キャリアを語る」[対談]S. アルロー& F. オールドフィールド、デュポンテル監督インタビュー「文学と映画の間で」、「対訳シナリオ『顔たち、ところどころ』」(訳・構成:中条志穂)も掲載しています。ぜひあわせてご覧ください。

タグ

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年12月号

ふらんす 2024年12月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる