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「キャシー・クラレ来日 アルバム「プリマベーラ」」丸山有美

「キャシー・クラレ来日 アルバム「プリマベーラ」
「わたしの家族はあなたの家族」」

丸山有美

 ウィスパーヴォイスの歌姫、キャシー・クラレが、日本先行発売の新アルバム「プリマベーラ」をひっさげ、27年ぶり2度目の来日を果たした。

 「母語はフランス語。でも毎日フランス語とスペイン語とロマ語を行ったり来たりして生きてるわ。国籍はフランスだけど、Méditerranéenne(地中海人)と名乗るのが一番しっくりくる」と語るキャシーのフランス語には、南の明るいアクサンが聞き取れる。少女時代は世界各地を転々とし、野宿をしたり、お金や食べるものにも困る放浪生活を送った。父は多くの問題を抱え、母は早くに亡くなり、頼れる大人も友達もいない状況で、「人知れず詩みたいなことばを綴ったり、絵を描いたり、工作をしたり……。創作が心の痛みを和らげるのを潜在的に知っていたのね」と当時を振り返る。16 歳のとき、ジタン(スペインとフランスを行き来するロマ)の大家族に出会い、生活を共にするようになった。独学で音楽を始め、18 歳から拠点をバルセロナに移し、1987 年のメジャーデビュー以降マイペースに音楽活動を続けている。90 年代に渋谷系の崇拝を集めたフレンチロリータとして記憶している読者もいるのでは?

 「プリマベーラ(PRIMAVERA)」というアルバムタイトルはスペイン語で「春」を意味し、キュートなウィスパーヴォイスに乗せ、生命力が漲る季節にふさわしいポジティヴなエネルギーを喚起する一枚だ。その随所に、日々を精一杯楽しんで生きるロマのスピリットが見てとれる。虚飾を拒むシンプルでリズミカルなことばで語られるのは、自由であること、愛すること、孤独のひそやかな喜びである。アルバム制作中、バルセロナを州都とするカタルーニャでは、独立を巡ってデモや負傷者の出る衝突が繰り広げられていた。「土地や人を区別するために争う感覚はわたしには理解できない。ロマにはそもそも国境なんて概念はないもの」という彼女の思いは、「マ・メゾン(わたしの家族)」という一曲に込められている。大切な人、手を差し伸べたい人たちのいる場こそがma maison であり、「わたしの家族はあなたの家族/あなたの居場所はわたしの居場所」と訴える。ポップな全12 曲のうち4 曲がスペイン語、8 曲がフランス語。「覚えやすい歌詞だからフランス語で歌ってね」とはキャシーから読者へのメッセージだ。

 ロマのスピリットを持ちスペインで愛されるフランス人シンガーソングライターのもとには、その数奇な半生を映画化したいというオファーも寄せられている。契約前のため名前は明かせないが、世界的に著名な監督が名乗りを上げているそうだ。実現すれば、アルバム同様に人びとの心に春の光をもたらすものになるだろう。

(まるやま・あみ/フリー編集者・ライター・翻訳者。前『ふらんす』編集長。共著『メディアの本分』)

◇初出=『ふらんす』2018年5月号


キャシー・クラレ『プリマベーラ』
(解説文・フランス語 歌詞対訳:丸山有美)
リスペクトレコード 定価2500円(税込)

 

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