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【特別寄稿】「騎兵旅団と戦争の記憶:〈軍郷〉の明治・大正・昭和 番外編 ――まもなく取り壊される騎兵旅団兵舎……」山岸良二

「騎兵旅団と戦争の記憶:〈軍郷〉の明治・大正・昭和 番外編
  ――まもなく取り壊される騎兵旅団兵舎……」
山岸良二(習志野市文化財審議会会長)

高校生が支えた戦後の発掘
 戦後まもない1950~60年代は、地方における発掘調査の実践部隊は地元の高校生や中学生らが担っていた。貴重な遺跡などが発見された時には発掘調査現場には地元の教員が高校生・中学生らを引率して調査する機会が多かったのである。
 北海道では札幌西高校はじめ函館など各地の公立高校に郷土史、考古学のクラブがあって活動していた。東北では福島県磐城高校が有名で、同校には重要文化財の「天冠埴輪」が保管されているように、古墳の発掘調査を盛んにやっていた。埼玉では東松山高校、東京でも國學院久我山、玉川学園高校、神奈川でも武相学園高校、慶應義塾高校といった私立高校に考古学系クラブがあり、各地の調査の主力となっていた時期もあった。西にも、京都の平安学園、広島の府中高校、鹿児島のラサール高校など考古学の世界ではよく知られた高校も多かった。
 千葉県にも1950年代県立千葉、多古、成東高校などに郷土史研究部などが創設され、県内の発掘調査に従事していた。ちょうど同じ時期に、習志野市に1952年創立された東邦大学付属東邦高校内に考古学研究会ができ、長野県軽井沢町や千葉市、松戸市、香取郡などで発掘調査を実施するようになっていった。
 同校に赴任した筆者のもとでも、市川市曽谷貝塚や柏市高野台遺跡、習志野市鷺沼台遺跡の発掘調査に参加してきた。

習志野騎兵旅団と東邦大学 
 そんな折、東邦大学習志野キャンパス(千葉県船橋市)内に1900(明治33)年創設の習志野騎兵旅団関係の建物が現存していることが分かり、2012年冬、考古学研究会は東邦大学習志野キャンパス構内に武道場として現存する「習志野騎兵旅団建物」について東邦大学より委託をうけて周辺確認調査を行い、この建物が現存する最古の「日本陸軍騎兵兵舎」であることを確認した。
 40年以上前、筆者が赴任した頃には習志野騎兵旅団4個聯隊(1個聯隊の敷地は東京ドーム1.6倍の面積)跡に設立された各学校内には多数の木造建物群が校舎として使用されていた。事実、東邦大東邦でも体育館、講堂として活用していた。赴任当時、先輩の教員より「グラウンドで転んで傷をつくると破傷風になる」と軍馬が多数いたことからの注意を受けていた記憶が残っている。
 2009年から放映が始まったNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」が人気を博してきた時、地元の商店街を中心にこのドラマの主人公・秋山好古が旅団長を務めた「習志野騎兵旅団」への関心が急速に高まった。

判明した事実
 この気運の中で、東邦大学に残る「木造建物」が明治からの「騎兵旅団建物」ではないかという問題点が指摘され、2012年大学内に「騎兵連隊建造物調査会」が筆者ら4名を委員に、また調査協力者に日本建築家協会の面々を加えて組織された。
 調査の方針としては、第1に本建物の建築学からの測量・分析研究、第2に本建物に関する文献・書類などが大学に残存していないかという文献調査、そして第3が本建物周辺の発掘による考古学調査――の3点とした。
 この結果、次のようなことが分かった。

 築年月 1900年12月
 構 造 木造、切妻造平入、波板鉄板葺、小屋組は木造キングポストトラス工法
 大きさ 梁間5間×桁行10間
 用 途 騎兵第十三聯隊、十四聯隊共用の用材庫として使用

 また、具体的な調査の流れと結果は以下の通りである。

 ・2009年から内部調査を開始し、東邦大学に保管している昭和35年起案の本建築営繕に関する稟議書に「明治33年(1900年)12月築」との記述を発見。
 ・建築専門家による目視により、建物内部のキングポストトラス構造が同時代の英米の建築技法であることを確認。さらに、この工法は明治初期の陸軍兵舎建築工法と合致していることも確認。
 ・2013年2月、3月に計5日間、東邦考古学研究会(中・高校生延べ34名参加)が発掘作業を実施。建物基礎部分から、陸軍を示す五芒星の文様の換気孔と、1892年頃から製造された桜印の煉瓦刻印を発掘。この桜印は、明治20年代から東京・小菅集治監で焼かれたレンガと確認。
・2013年4月、5月に発掘作業で発見した遺物の整理(水洗い作業・実測作業)を実施。

 以上から、調査会としては「本木造建物は明治33年、習志野騎兵旅団創設期に建設されたものと確認し、習志野地区に唯一残る貴重な歴史的建造物」と考え、極力保存する方向で善処するように結論した。
 なお、中・高校生による発掘調査は当時多くの新聞、テレビなどでも報道され、2014年夏九州国立博物館で開催する全国の高等学校に保管されている「考古資料」を集め、展示・講演する「全国高等学校考古名品展」、そして「全国高等学校 考古学フォーラム2014」に招聘された。
***
 調査会の結論も空しく、まもなくこの歴史的建造物は解体される。


建築外観


内部の屋根構造。当時としては珍しい洋風のキングポストトラスの小屋組


基礎部分の発掘により、発見した鋳鉄製換気口グリル。陸軍を示す五芒星の文様


基礎部分に使われていた煉瓦から発見された桜印の刻印。この桜印は1892年頃から小菅で製造された煉瓦ということを証明している

 

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