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【座談会】われわれに何ができるのか? 後篇——『人口半減社会と戦う:小樽からの挑戦』より

『人口半減社会と戦う:小樽からの挑戦』小樽市人口減少問題研究会 著
【座談会】われわれに何ができるのか? 後篇

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江頭進(小樽商科大学理事(総務・財務担当副学長))
岡部善平(小樽商科大学商学部教授)
松本朋哉(小樽商科大学商学部教授)
木島雅雄(小樽市企画政策室主幹)
濵谷武司(小樽市教育委員会学校教育支援室主査)
半谷秀和(小樽市子育て支援室児童福祉係長)

「宿題」の政治経済学

江頭  実際の教育現場はどうなっているんでしょうか。研修を増やす一方で、教員の働き方改革ということも言われている。運動会の時間を半分にしたり、英語教育・情報教育も入ってきて、教材研究も大変です。より大きな視野で見れば、多様性が増す一方で、所得格差は拡大している。小樽市は教育という領域でどこに向かおうとしているのか。

濵谷  さきほど研修を増やしたと言いましたが、文科省の視学官を呼んだり、国の動きを積極的に伝えたりするように努力しています。これは他の自治体と比べても多いと思います。英語もそれぞれの小学校に指導員を派遣して、授業時間内に実際に見てもらいながら、改善を行っています。働き方改革は当然ですが、それ以上に義務教育という観点で児童生徒に最低限ここまでは力をつけてほしいという到達目標があるので、そこに行きつけるように研修や研究を通じて先生たちと努力していきたいです。他方、さきほどお話したように、ふるさと教育の観点から、小樽を好きになってほしいということで、いろんな団体の協力を得ながら体験学習も実施しています。

江頭  小学生になる自分の子供を見ていると、宿題の量が少なすぎて不安に感じます。家庭学習にシフトして学校の先生の負担を減らしているのではないか。

木島  たしかに昔と比べると、先生は忙しいそうですよね。

濵谷  忙しいです。

木島  うちも小学生の子供がいますが、夏休みの宿題は家庭で採点して提出ということになっています。今はそういうものなんだと思ってますが、先生の働き方改革の一環なんですかね。

濵谷  そういうことではないと思いますが……

松本  そもそも宿題は多い方がいいんですかね。

江頭  各家庭の教育への関心が同じであれば、かまわないんです。小樽のように所得が全体的に低く、家庭環境にバラツキがある状況では、義務教育の段階で学力差が出てしまうのは好ましくない。中学生になって自分たちの将来を考えるようになったときにいろんな選択肢がないといけない。最低限の教育を行うためには普遍的な学校教育が重要で、宿題が大切なものになってきます。進学校を目指して難しいことをやれということではないんです。所得格差が教育格差に結び付く事態は避けたいという考え方です。

松本  最近「宿題は効果がない」という論文を読みました。

木島  東京の麴町中学校で宿題を廃止にしましたね。担任もなくしたとか。

濵谷  市教委としてではないのですが、あの取り組みを実施した校長先生には小樽に来ていただき、講演もしてもらいました。宿題ではないですが、市内全校で放課後学習を強化しています。昔なら担任の先生が各自の判断でやっていましたが、働き方改革ではないけれど、学校全体で取り組む課題と位置づけ、例えば、月曜は低学年、水曜は中学年、金曜は高学年という形で実施し、児童の理解度に応じてプリントをやってもらったり、放課後だけでなく夏休みもやっています。さらに、小樽商大の学生さんにもお願いしていますが、ボランティアで教えてもらっています。先生よりも年齢が近い学生に教えてもらった方が刺激になりますから。

岡部  たしかに市全体で見ると、全国学力・学習状況調査の結果は改善しています。市内には地域格差はみられるんでしょうか。

濵谷  差はありますが、そこも縮まってきています。各学校の努力で改善はずっと続いてきています。

岡部  そうした取り組み状況がうまく伝わっていないというのがあるんじゃないでしょうか。学校で熱心にサポートしているにもかかわらず、それが伝わらないまま学年が上がるにつれて不安要素が強まる結果になってしまっているんじゃないか。

江頭  義務教育だけでなく高校以上も考えないといけません。昔みたいに普通科、工業科、商業科という区分けではなくなっています。人口の流出先である札幌市にはいろんな選択肢があります。中高一貫校やスーパーサイエンスハイスクールもそうです。昔みたいに勉強が出来れば道立小樽潮陵高校というような形ではなくなっている。当然、選択肢の多い札幌に目が向くわけです。

岡部  データを見ても、幼児教育に対する満足度は低くないし、初等教育もそれほど悪くない。問題は中等教育にある。高校は設置主体が異なってくるので、解決はより難しくなります。もう少し地域を広い視点でとらえないと、教育問題も解決が難しくなってきてしまう。自治体が高校を買い取るという手もあるかもしれないが、そうなるとプランを明確にして予算措置が必要になる。

木島  道立から市立・町立に変わったところもありますね。昔なら潮陵高校は道内で十本の指に入ると言っていましたが、今はそうも行きません。そういう状況で札幌の高校に行く人がいるということも聞いたことがあります。もっと言うと、中学から札幌の私立に行くというケースもある。いい高校からいい大学、そしていい就職先へという流れだとすると、小樽が選択肢から少し外れていっているのかもしれません。

岡部  高校について市レベルでやれることが限られているというときにさきほどの初等教育で小樽を好きにするという取り組みが重要になります。調査で、関係性志向、すなわち地域で人との触れ合いの中で子供を育てたいという人ほど定住志向が強くなり、他方、習い事をさせたい、英語をさせたいという人ほど離れていくという結果が出ています。学力という目に見える数字を追いかけるのは非常に重要なんだけど、地域やふるさとに対する教育も義務教育でできる努力になります。そこの重要性はもう一度認識してもいいんじゃないか。

松本  学校教育の重要性が薄れてきていると思うんです。昔みたいに親が学校に縛られる必要はないですよね。極論かもしれないけど、youtube でいい授業はたくさんある。

濵谷  わたしが中学校の教員だった数年前、学力が高く、昔なら迷わず潮陵高校に行っていたような生徒があえて自宅近所の高校を選ぶというケースが何件かありました。理由は「近いから」です。かつて「小樽は何もない」と言ってた教え子が「小樽は落ち着く」と帰ってくることもあります。そういう意味で学校教育だけでなく生徒も多様で変わりましたね。

半谷  とはいえ、中三の子供がいますが、たしかに札幌は魅力的に映ります。我が家では親も子も揺れている状態です(笑)

観光は起爆剤になるのか

木島  わたしは小樽生まれの小樽育ちですが、高校生の頃まで札幌を意識したことはありませんでしたね。大学受験のときに札幌というより小樽市外を考え始めました。札幌は華やかなまちという程度です。特に人口流出先という脅威として認識はしていませんでした。

江頭  戦前の段階で札幌の方が大きかったわけですね。一九七二年の札幌オリンピックの段階では大分差がついていた。小樽は一つひとつ自分たちが得意とする産業を道内各地からはぎとられてきた。苫小牧に港湾事業、千歳に人の玄関口というようにね。札幌には雪まつりも取られています。ただ、市議会で札幌のベッドタウンにならないと決議もしていて、ずっと札幌のことを意識はしてきた。

木島  かなり昔の話ですよね。

江頭  小樽は今後どこに向かうのか。観光など何かに特化していくのか、それともミニ札幌になるのか。あるいはベッドタウン、衛星都市なのか。

木島  観光は小樽の基幹産業だと、二〇〇八年には観光都市宣言もしています。そういう意味では、観光を中心にしてその波及効果で市内の経済を潤し市民に還元するということだと思います。ただ、観光だけで生きていくという訳ではない。

江頭  果たして今の小樽市に観光政策はあるんだろうか。日本遺産でもPR一辺倒で、人集めなんですよね。市内観光のビジネスモデルの転換というようなアイディアは出ていないように見えます。利益率の改善とかビジネスモデルの改変とか企業の経営の内部にまで突っ込んだ政策が見受けられない。

木島  より観光に特化する方がいいんですかね。

江頭  個人的には観光に特化するのは賛成ではありません。観光は市のブランドイメージを構築するのに非常に重要な役割を果たしますが、日本型ないしは大衆型観光で成功している国は発展途上国なんです。京都ですら主要産業は製造業です。所得も利益率も産業が製造業か観光業かで全然違います。ブランドイメージの構築には必要だけど、小樽の観光産業は客単価が安い。利益率が低いがゆえに賃金率が低い。賃金率が低いがゆえに若い人は出て行ってしまう。そうした問題がどうしてもある。所得と人口移動は正の関係があります。小樽にはやはり製造業が必要です。それも従来型の製造業ではなく、距離や場所に縛られないIT産業。そういうところは利益率も高く、賃金も高い。ただ、他の地域と競争になります。加えて製造業がいいと言っても単一の産業では意味がないということが今回の調査で分かりました。人口規模の小さな自治体ならそれでいいかもしれないけど、小樽のような十万人都市ではそうはいきません。だから市の包括的な産業政策が重要になってきます。あとはロシアとの交易です。博多は東アジア交易がやはり大きい。小樽はもともと交易で栄えたまちですから。

空き家からベッドタウンをつくる

江頭  今回の共同研究が実際の政策に反映されたということはあるんでしょうか。

木島  子供の医療費の助成は、この報告と軌を一にしています。従来は小学生まででしたが、岡部先生の提言にあったとおり、今年度から中学生の入院にも医療費助成を拡充しています。それとさきほど指摘された関係性志向という観点で、いくつか政策を検討中です。公園も市長が「どこに行っても同じものしかない金太郎飴みたいな公園でいいのか」という問題意識を持っていて、今回の共同研究とリンクしてきています。

江頭  ほかにはどうですか。

木島  空き家問題も動いています。ただ、固定資産税の通知のときにいろいろな案内を同封していますが、所有者のかたにこちらの問題意識がなかなか届かないというのが現状です。また共同研究の結論のひとつである札幌のベッドタウン化ですが、市内のどの地域を割り当てるのか悩ましい問題です。ベッドタウンというとどうしてもニュータウンというか新たに宅地造成した方が人は集まりやすいと思いますが、ただ、その土地がない。江別や恵庭には団地が出来たりだとか宅地増で社会増になっています。小樽は昔からのまちなので、そこらへんの解決がなかなか難しい。

江頭  小樽の古い空き家は大体建築基準法や消防法にひっかかる。だから再利用するにしても消防署や市役所に許可を取る必要があり、これが非常に手間です。いろいろなところで交渉しないといけない。そういう煩雑さを一元化できるだけでも大きい。そうすれば、空き家とベッドタウンは連動させることが出来ます。旧来の開発型ベッドタウンとは違うものですよね。そういう仕組みづくりで移住促進が出来るのではないかと思います。

木島  たしかに手続きが煩雑な部分はあるのかもしれません。現在では手続きの一元化までは行かないにしても、移住相談などではつなげるように努力はしています。

江頭  移住のポイントはネットワークだと思うんです。移住者には基本的につながりがありません。そこを支援するのも重要です。地域のネットワークにいかに移住者を巻き込むことが出来るか、という問題です。僕は学校が重要だと見ています。PTAが社会的に叩かれていますが、学校がつくる学校外のネットワークが焦点ではないでしょうか。

濵谷  文科省でもそういうネットワークの構築を促進しています。小樽市でも積極的に動いています。コミュニティスクールの取り組みもありますね。

松本  移住の経験の多い私の立場から言わせてもらうと、子供がいると地域のネットワークに入っていけるというのはありますね。子供同士の付き合いが親にまで波及してくる。妻も言ってますが、子供が小さいうちは引っ越しても地域に溶け込める。ただ、ある程度、子供が大きくなると、近隣住民と交流する機会が減って、なかなか溶け込めなくなるんです。

半谷  たしかに子育てのネットワークで言うと、既存のネットワークや子どもの居場所など、既に機能している地域資源はあると思います。行政が居場所をつくるというよりは、たくさんある居場所や住民相互のつながりを、必要としている子育て世代の人に届ける、紹介することが行政の役割なんでしょうね。

岡部  研究結果を見ても子育て世代はネットワークを欲しているというのが数字に出ています。あとは地域に馴染めなかった人たちをさらに取り込むようなものがあるかどうか。

失われた小樽を求めて

江頭  小樽市は現在、高齢化率が四十パーセントを超えています。この傾向はずっと続くんでしょうか。

松本  将来的には一巡して若干若返るんじゃないですか。

木島  実数としては六十五歳以上のかたは減ります。いまが人数としてはピークです。ただ、その他の世代のかたもより減少すると推計されています。

松本  小樽の平均年齢は道内で一番高い。二〇一〇年時点で五十歳を越えている。これは全国的に見ても、人口十万以上の都市で二番目になります。一位は大阪市西成区。小樽がそれに続きます。全国平均よりも五歳程度高い。だから小樽は自然減が加速していきます。

木島  国立社会保障・人口問題研究所の推計で小樽は二〇四五年に人口六万人。高齢化率は五十二パーセントと推計されています。

江頭  規模が小さくなるメリットはなんでしょうか。

松本  意見集約がしやすくなりますね。

江頭  猿払村のホタテ養殖の成功の事例が示しているように、ワンイシューに焦点を絞ることで、まち全体の問題が解決するという可能性はありますね。ただ、人口が減ると、行政もそのままのサービスが維持できるわけではないということも考えないといけない。反対にまちの規模が大きいと、単一産業、例えば、観光で儲かってもすべてに行き渡らないということも出てきます。当然、意見集約も難しくなり、事態の収拾も困難になります。

木島  人が減るというのはやはりデメリットの方が大きい。

江頭  問題は人数だけではありません。小樽が一番元気がよかったころは流動性がすごく高かった。北の玄関であり、ヒト・モノはすべて小樽を通った。昼間の滞在人口は六十万人いました。商店街が大きく、宿も多かった。妙なものも含めて、知識と情報がたくさん入ってきたわけです。モンブランが栗のケーキではなくチョコケーキだったり、中途半端なネタであふれてた(笑)人の流れと情報の流れにお金の流れもついてきた。人の流動性をどうやってつくるか、そこなんだと思う。一九八〇年代のシリコンバレーのベンチャー起業の生存率は五パーセントぐらいです。百つくって九十五失敗するような人間を小樽の人たちが許容できるか。そういう空気がつくれるかは重要ですよね。「失敗してもいいよ」特区を小樽につくれるのか。歴史を振り返ると、かつてはあったわけです。このまちは半分山師みたいな人だらけだった。そういう人たちがかつての小樽では活躍することができた。斜陽と言われるようになって保守的になったんです。かつての枠組みをもう一度つくれるかどうか。

岡部  ネットワークには三類型あると言われています。閉鎖的な結束型、外部との交流も含めた橋渡し型、そしてトップダウン的な部分もある連携型です。第二の橋渡し型というのをいかに築けるかなんだと思います。内部に閉塞するのではなく、勝手に入って勝手に出て行けるような形。少なくともその構築の際に行政の情報提供は一定の意味があると思います。

松本  わたしは主にアフリカ農村の貧困問題、そして貧困に付随する農業、金融、教育などの課題解決が専門なわけですが、途上国の経済を豊かにする方策と地方創生のためのそれは似ている部分があります。まず大事なのは、新しい技術なり知識を導入することなんです。そういうものは、ずっと地元にいる人には気づかないものが多い。例えば小樽のよさは小樽にずっと住んでいたらわからなかったりするわけです。そこでよそ者の視点がすごく大事になってくる。「よそ者、若者、馬鹿者」が地方創生に貢献するとよく言われますが、僕の解釈では、「よそ者」はその地域を他地域と比べ相対化できる人。アフリカの農村でもそうです。新しい知識や技術の有効性はよそ者によって知らされる。よそ者はNGOや援助機関に限らない。一度、都会に出て戻ってきた人もそう。「若者」は新しい考えの受容者で、「馬鹿者」はリスクを取る人。失敗をたくさんしても、たまに成功すればいい。「よそ者、若者、馬鹿者」を受け入れる素地を作ることが、地方創生の鍵になるのではないでしょうか。

江頭  きょうはどうもありがとうございました。(了)

二〇一九年七月十八日、小樽商科大学

◇初出=『人口半減社会と戦う:小樽からの挑戦』小樽市人口減少問題研究会 著

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