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【座談会】われわれに何ができるのか? 前篇——『人口半減社会と戦う:小樽からの挑戦』より

『人口半減社会と戦う:小樽からの挑戦』小樽市人口減少問題研究会 著
【座談会】われわれに何ができるのか? 前篇

江頭進(小樽商科大学理事(総務・財務担当副学長))
岡部善平(小樽商科大学商学部教授)
松本朋哉(小樽商科大学商学部教授)
木島雅雄(小樽市企画政策室主幹)
濵谷武司(小樽市教育委員会学校教育支援室主査)
半谷秀和(小樽市子育て支援室児童福祉係長)

連携の新たな〈形〉

江頭  二〇一七年、前の市長時代、副市長から発議があり、小樽市と小樽商科大学の共同研究が実施されることになりました。当時の問題意識は、安倍政権になり景気が回復したにもかかわらず、雇用情勢は改善されず、人口減少のスピードが止まらない、年間二千人が減り続ける状況が変わらないというところにありました。これをどう考えるべきなのかということだった。他方、小樽市の人口減少については、既に各方面で様々な立場のかたが発言をされてきた。こうした意見はどれも正しいように聞こえる。ところが、きちんと実情を調べたことはなかった。そこでアカデミックな視点から人口減少の問題を取り扱い、真の原因を探り政策に反映しようということになりました。

木島  三百二十万円の補正予算を組みました。

江頭  アカデミックな視点から取り組むと言っても、小樽商大が一方的に行うというのでは意味がありません。あくまで現場で小樽市の政策を担い、学校教育や産業政策はじめ実際の現場に携わっている職員とともに、表面上の数字に表れないデータも含めた研究にしようと考えました。通常、われわれは自治体から受託研究という形で事業を請け負うが、今回はそうではなく、小樽市の職員のかたがたとともに考えていくという共同研究の形をとることにしました。

木島  研究会は昨年七月に報告書を市に提出するまでに十二回開きました。

江頭  最初はアイディア出しから始めましたね。分析結果も一緒に検討しました。

木島  研究会の議論にしっかりついていくために、統計学の本を読み漁りました。

江頭  自治体と国立大学が膝を突き合わせてここまで議論を積み重ねた共同研究は全国でも例がないと自負しています。受託研究の場合は結果を返すことで終わりますが、何度も何度も密に連絡を取り合いました。

木島  企画政策室に異動してひと月、副市長からこのプロジェクトを進めていることを聞きました。もちろん、小樽の人口が減っているのはわかっていました。ただ、これからどういう分析を行うのか、筋道もわからず先行きが見えなかったというのが最初の印象です。

江頭  小樽商大としても初めての取り組みでした。さきほど言及した受託研究についてもう少し詳しく言うと、研究を受託するのは通常、個々の教員です。今回は研究支援部門長のわたしがコーディネーターになり、学内でこの問題にユニークなアプローチができると考えた研究者に声をかけました。だから集まった研究者は必ずしも人口問題が専門というわけではありません。開発経済学や教育学、データサイエンスや統計学というように多岐に及んでいます。

松本  わたしは開発経済学が専門で、主にアフリカの農村経済を研究しています。小樽商大に着任して早々、いきなり江頭さんから「小樽の人口減少問題に取り組まないか」と声をかけられました。もちろん、人口が減っているという話は聞いてましたが、どの程度なのかなど全く予備知識がない状態でした。ただ、ずっと住もうと思って小樽に来たので、小樽にコミットするいいチャンスだと思いました。

江頭  松本さんは開発経済学が専門でフィールドワークが得意であるということと、お子さんがおられるということでこのプロジェクトにお声がけしました。小樽市の人口減少を見たときに子育て世代の流出が一番深刻です。

岡部  わたしは教育学の立場からこのプロジェクトに参加しましたが、いつのまにかメンバーになっていた!(一同笑)人口減少についてデータを集めたことはなかったので、最初は木島さんと同じく戸惑いましたね。ただ、教育や子育てが人口減少と切り離せない側面があるのではないかとずっと気になっていました。専門は子育てではなく学校教育なんですが、幼児教育から学校教育というように縦につなげてひとつのまちを見てみたら何が見えてくるのか、共同研究ではそこに主眼を置きました。やってみて、小樽への見方は変わったと自負しています。

子育てと教育からのアプローチ

江頭  共同研究を終えてみると、子育てや教育が人口減少を食い止めるのに重要であることがわかってきましたね。市子育て支援室からは半谷さんが参加されました。いかがですか。

半谷  通常は児童手当をはじめ窓口業務を担当しています。いわば子育て支援の最前線で、市民一人ひとりと対面する現場です。共同研究の結果として子育て世代に政策の力点を置くという結論は、現場に出ていたせいか「やっぱりな」と思わず相槌を打ちましたね。一方、研究を通して意外だったのは、小樽市と主な人口流出先である札幌市に子育てをめぐる制度上の差異がほとんどなかったことです。ただ、その状況でも自然減だけでなく社会減が多い。そこをどうとらえていくか、考えさせられました。窓口で業務をしていても、子育て世帯は転入より転出の方が多いと実感しています。いろいろご意見を聞いていると、子育て世帯のかたから「公園が少ない」という声を聞くことも多く、今回の研究の結果とも符合していたのが印象的でした。そういう形で、共同研究によって日々の感覚が実証された点も多かったです。

江頭  教育委員会から参加された濵谷さんは共同研究に参加してどうでしたか。

濵谷  わたし自身はもともと中学校の教員です。そこから社会教育に携わるようになり、その一環で全道の会議をはじめ人口減少の問題にも関与するようになりました。そして異動して「久しぶりに学校の方に専念できる」と喜んでいたら、このプロジェクトに参加することになりました(笑)

江頭  子育て世代が小樽市の教育レベルに危惧を抱いているという結果が今回の共同研究でも鮮明に出ています。

濵谷  現場の先生たちは意識をもって取り組んでいます。研修の機会も増えています。全国学力・学習状況調査の結果を見ると「まだまだ足りない」と言われるかもしれないが、着実に伸びてきています。その努力をより多くの市民のかたがたに見えるようにしていくことの必要性を今回参加して痛感しました。加えて、市では社会減だけでなく「戻す」ということにも力点を置いています。つまり「ふるさと教育」の充実ですね。郷土愛を培う取り組みですが、これは数字では計れません。こうした取り組みと今回の研究はすごくリンクしています。

不可視化する所得格差

江頭  子育てや教育について考えると、小樽と札幌では大差はない。これは全国的な文教福祉政策だからある意味では当然です。一方、福祉や教育は、経済学的に言えば、再分配政策です。所得格差を税金で吸収して再分配していく。ところで、小樽と札幌には所得格差が存在します。小樽の方が札幌と比べて年間所得で三十万円程度低い。それを前提にすると、所得が低い家計に対して同じ補助をするということは再分配の機能として有効ではない可能性がある。札幌よりも所得が低いなら本来ならば札幌よりも厚い支援をしなければならない。ところが、所得が低い、経済力が弱いということで、税収も少ないので、支援の原資も出てこない。窓口でこういう印象というのはありますか。

半谷  確かに今回の研究で札幌との格差が数字で判明していますが、私の職場の窓口には、所得が低いかた、高いかた、さまざまな状況のかたが来られますので、なかなか現場では一概にそういう印象を持つことはありません。

江頭  市町村税の課税対象所得者の平均所得で見ると、小樽はかなり貧しいまちということになります。ただ、市の政策として貧困問題が大きく上がったことはないですよね。

木島  二〇一五年に生活が困窮しているかたを支援するために、生活サポートセンターを立ち上げて対応しています。

江頭  所得向上をという話は聞かない。所得の低さというのはやはり考えないといけない問題です。市内企業の経営改善の指導だとか、賃金の高い企業の誘致とか。この点、札幌の方が事業支援が厚いという話もあります。

木島  企業誘致は昔からやってますね。

江頭  所得というよりも雇用に焦点を当てていたのかな。

岡部  調査で意外だったのは、子育て環境の満足度に関して所得が必ずしも明確な規定要因になってないということです。転出希望、転入希望に関しても、低所得は転出の要因になるけれど、転入の要因にもなる。所得による露骨な格差が見えづらい状況にある。

松本  住民が同地域に住み続けたいと思う「定住志向」あるいは他地域に転出したいと思う「転出志向」はどういう要因で決まるのか、それらを明らかにすることがわたしに与えられた課題でした。わかったことは、地域の政策や環境に対する満足度が小樽市民の定住志向ととても相関が高いということです。これは、満足度が高ければ、同地域に住み続けたいと思う傾向が強いということで、当たり前と言えば当たり前です。もう一点意外な発見だったのは、他の近隣自治体の住民と比較して小樽市民の定住志向が高かったということです。予想では小樽に不満を持っている人が多く定住志向も低いのだろう、だから人口減が止まらないのだろうと思っていたけれど、実はそうじゃなかった。しかも、どの世代で見ても、皆さん割と小樽に住み続けたいと思っている。現在、人口が増えている千歳や恵庭と比べても、小樽市民は自分の地域に対する定住志向が高い。これはすごく意外でした。だから、小樽の人口減少については、自然減の部分が非常に大きい。自然減に伴い社会減も発生しているのではないか。そう考えました。世代別で見ると、定住志向は年配で高く若者で低いですが、これは小樽市に限らない。札幌市でもそうです。若いので、家族はいないし、資産もないし、その地域に不動産もない。動きやすい。データでは特に小樽の若者は外に出たい志向が強かった。男女差はそんなに大きくありませんでした。年齢差が大きかった。

岡部  年齢で見るときに注意しないといけないのは、本人の年齢だけでなく、子供の年齢によっても傾向が違ってくることです。二歳児の子供がいる家の転出割合が一番高かった。五歳児や小学校二年生になってくると、むしろ定住の方に傾いてくる。小五、中二はどうかと言うと、これは数字でははっきり言えない。これはある種の揺れ動きというか不安感というか、このあとどのように子供たちを育てていくのか、高校進学はどうするのか、長いプランで考えたときにある種の迷いが生まれている。その際に札幌という大都市があると、そこに目が向いてしまうわけです。

>後篇

二〇一九年七月十八日、小樽商科大学

◇初出=『人口半減社会と戦う:小樽からの挑戦』小樽市人口減少問題研究会 著

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