白水社のwebマガジン

MENU

東京大学教養学部編〈知のフィールドガイド〉特集

東京大学教養学部が一般向けに開講する「高校生と大学生のための金曜特別講座」を書籍化した『知のフィールドガイド 分断された時代を生きる』『知のフィールドガイド 科学の最前線を歩く』(東京大学教養学部編)の関連情報をお届けします。

>試し読み①「アメリカ文学名場面集」吉国浩哉

-------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 

「知のフィールドガイド」への招待

東京大学教養学部社会連携委員会 委員長
東京大学教養学部統合自然科学科 教授
新井宗仁

 価値観が多様化し、学問も複雑化している現代においては、若者が自分の進路を決めることは容易ではないだろう。しかも多くの場合、自分が何を専門とするのかを大学受験までに決めなければならないのが実情である。だが現在、高校までの基礎教育と大学からの専門教育の間に存在するべき「進路選択のための教育」は、果たして十分といえるだろうか。高校生や大学生が自分に合った進路を見つけ、生き生きとしながら専門教育を受けるためには、「進路選択のための教育」をもっと充実させる必要があるのではないかと思われる。

 この問題は、大学の入試制度やカリキュラムとも密接に関係している。多くの大学では学科別に学生を受け入れ、在学期間中一貫して専門教育を行っている。そのため、大学が「進路選択のための教育」を行うことは稀である。

 一方、東京大学には独自の進学選択システムがある。東大に入学した学生は全員、駒場キャンパスにある教養学部で最初の2年間を過ごす。そこで学生たちは、高校までに学んだ知識の理解を深めるだけでなく、文系から理系までの幅広い学問を身につける。この2年間を通して学生は自分の進路を決め、大学3年時に諸学部の諸学科へと進学し、専門的な教育を受けることになる。高校までに考えていた進学先と異なる学科を選ぶ学生もいるし、文系で入学した学生が理系に転向することやその逆も珍しくはない。これらは、大学受験までに進路を決めることの難しさと、進路選択のための教育の大切さを物語っていると言えよう。

 教養学部の教員は、喜びに目を輝かせて東大に入学した学生たちが、将来、多方面で活躍することを期待しながら、熱い講義をしている。そして学生たちの進路選択の参考となるように、自らの研究分野の魅力や夢を語る。おそらく、東大の全教員の中で、学生たちの進路について最も真剣に考え、親身に語りかけ、相談に乗り、手厚いサポートをしているのは、教養学部の教員であろう。そのような教員だからこそ、進路選択に悩む高校生たちにも伝えたいことがある。若者たちが自分の夢や生きがいを見つけるための手助けをしたいと心から思う。

 そこで東大教養学部では、高校生と大学生の進路選択の参考となるように、2002年から公開講座を開講している。「高校生と大学生のための金曜特別講座」である(以下では「金曜講座」と省略する)。金曜日の夕方、東京近郊の高校生たちが続々と、渋谷に近い東大駒場キャンパスに集まってくる。約200人もの熱気の中で、東大の教員が自らの専門分野(フィールド)のおもしろさを伝え、将来的な展望を描き、なぜ自分はこの道を選んだのかを語る。また高校生や大学生たちからの多くの質問にわかりやすく答える。同時に、遠隔地にある全国の五十以上の高校にもインターネットで講義を配信し、リアルタイムで返答している。この機会に自分の将来を相談する生徒や学生もいる。

 この金曜講座は現在、1, 2週間おきに開講され、文系、理系、さらには文理融合分野までの多様な教員が熱い講義を繰り広げている。また、この講座の趣旨にご賛同くださった他学部の先生方にもご登壇いただいている。その講義録をまとめた書籍は、これまでに11冊刊行されている。それらは、まさに、さまざまな専門分野のガイドブック、「知のフィールドガイド」である。

 

 東大教養学部の教員は、大学の全1, 2年生向けの教育のほか、教養学部に進学した大学3, 4年生や大学院生向けの専門教育を行い、さらには、最先端の研究活動も展開している。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典 東京大学特別栄誉教授は、東大教養学部の基礎科学科(現在の統合自然科学科)を卒業され、駒場キャンパスで大学院時代を過ごされた後、40代に助教授として再び教養学部に戻られた。大隅先生がノーベル賞受賞対象となった研究を開始され、オートファジー現象を世界で初めて観察されたのは、まさに助教授として教養学部で教鞭をとられていたときであった。ノーベル賞を育てた自由な学風は、今も駒場キャンパスに満ちあふれており、そこでは日夜、最新の研究成果が生み出されている。これらは新たな知のフィールドを開拓するだけでなく、広範にわたるさまざまな知と統合されて最先端の「教養」を構成する。

 教養とは、単なる雑学的知識の集積ではなく、実践的に活用できる整理された知識である。この意味での教養の獲得は、物事への深い洞察と幅広い展望を可能とし、客観的で的確な判断を実現しうる。これにより、現代における多様な問題を解決し、将来進むべき方向を見い出すこともできるだろう。「知のフィールドガイド」には、このような最先端の教養が散りばめられており、高校生や大学生に限らず、多くの社会人にも有用である。実際、金曜講座は幅広い年齢層の社会人にも大好評である。

 

 「進路選択のための教育」と「先端的教養の講義」を同時にできるのは、東大教養学部の教員ならでは、であろう。その醍醐味を最新刊の『知のフィールドガイド・科学の最前線を歩く』『知のフィールドガイド・分断された時代を生きる』の2冊で味わってほしい。将来に悩む若者は、ぜひこれらの本を手に取り、自分が一番気に入る講義を探してみるとよい。どちらにも約20回分の講義が収録されており、前者は主に理系、後者は主に文系の内容である。しかし、どの講義も受講生が文系・理系のどちらであっても理解できるように行われているため、本書も文理を問わずに読むことをお勧めしたい。それを通して、あらゆる事象を論理的に考える能力を磨くことができるだろう。論理的思考力という武器さえ身に着ければ、どんな分野でも縦横無尽に駆け巡ることができるのである。

 本だけでは物足りないならば、ぜひ東大駒場キャンパスの金曜講座まで足を運んでほしい。金曜講座では今後も、新たな知のフィールドを紹介していく。場所とスケジュールは講座のホームページ(http://high-school.c.u-tokyo.ac.jp)でご確認いただきたい。遠隔地の高校へのインターネット配信も随時受け付けている。

 一冊の書物や一人の人間との出会いが人生の選択を大きく変え、未来が一瞬にして広がっていくような体験ができるかもしれない。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

【書籍案内】

◎ホメロスから現代アートまで、人文科学の講義を収録

『知のフィールドガイド 分断された時代を生きる』
東京大学教養学部 編

◎DNAからニュートリノまで、自然科学の講義を収録

『知のフィールドガイド 科学の最前線を歩く』
東京大学教養学部 編

タグ

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年5月号

ふらんす 2024年5月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる