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「イル=ド=フランス地域圏 トラムT4号線―在来鉄道のトラム化の実態を見る」安藤博文

「イル=ド=フランス地域圏 トラムT4号線―在来鉄道のトラム化の実態を見る」

安藤博文

雑誌『ふらんす』の2023年6月号の特集は「これからのトラム」。番外編を「webふらんす」オリジナル記事として公開いたします。

 シャルル・ド・ゴール空港からRER B線でパリに向かう途中、SNCF(フランス国鉄)Aulnay-sous-Bois駅の端っこにトラムが止まっているのが見える。これは、1876年にレ・コクティエ線Ligne des Coquetiersとして開通し営業されてきたRER E線のBondy駅とを結ぶ通常の鉄道線を、2006年にトラムに改装したものである。路線の経営は変わらずにSNCFであるが、簡易化された駅、ホームなどの地上設備や、直流750Vの架線電圧とされた電力関係(従来は交流25kV)、信号等(基本的に目視による運転)と、完全にトラム化され、T4号線の路線番号が与えられている。トラム化の目的は、踏切を減らすこと、設備のスリム化や列車本数の増加など、多岐に及ぶ。このように、既存路線を改築し、新規路線と接続された路線をトラム・トランTram-Trainと呼び、フランスではこのT4号線の他に2022年に改装されたパリ西郊のT13号線、ミュールーズMulhouseの3号線がある。さらにはこの派生形として、Tram-Trainの車両を使用した国鉄の列車もパリ郊外やナントNantes郊外で運転されているが、こちらは車両だけトラムタイプで、電力、信号等は既存の鉄道システムを用いる。
 それでは、寄り道をして乗ってみよう。Aulnay-sous-Boisを出ると、専用軌道、というよりも鉄道規格の線路を行く。踏切こそ廃止されたものの、バラスト(砂利)と枕木に支えられたレールを滑り、乗車感覚は通常の鉄道である。途中のGarganで降りてみる。


旧鉄道線と新規路線の分岐駅Gargan

ここから、東に向かって2019年に支線が開通、2020年に延伸され、現在はHôpital de Montfermeilまでの4.9kmとなっている。実際に乗ってみると、道路との踏切無しの平面交差あり、緑化軌道(芝生で線路を覆っている)あり、丘を登る急坂がありと、変化にとんだ片道20分であった。そして2010年代~20年代にかけてトラムのできたパリ郊外において共通なのだが、再開発が行われ、人の移動が活性化したことで、治安がすこぶるよくなっている。本沿線のClichy-sous-BoisやMontfermeilといった町も例外ではない。再びGarganに戻り、元鉄道線に直通していく。上述の街の人たちにとっては、Bondyでの一回乗換でパリのサン=ラザールまで直通するようになった。


Bondy駅に乗り入れるトラム・トラン

 この路線のトラム化とほぼ時を同じくして、日本の富山市では、JR富山港線が同じ手法でトラム化された。やはり、本数増加で便利になったのと同時に、新規トラム路線を建設して直通することによって中心市街地へのアクセスが容易になったことは、どちらも共通している。ローカル線活性化の起爆剤の一つと言えよう。

 

【執筆者プロフィール】
安藤博文
静岡大学・静岡県立大学・名古屋外国語大学・近畿大学・関西大学など非常勤講師。フランス語言語学・音声学。JR全線完乗。

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