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特集「21世紀のジャポニスム」

『ふらんす』2018年8月号から、特集の一部をご紹介します。

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かつて、日本の浮世絵は印象派の画家たちに多大な衝撃と影響を与え、
ヨーロッパに〈ジャポニスム〉という一大ブームを巻き起こしました。
21世紀の現在、また新たな波がきています。
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ジャポニスム2018とは?

◎そもそも、ジャポニスムとは?


ゴッホ《雨の大橋》(1887)

 « Japonisme » とは、見たとおり、日本を表す名詞 « Japon » に「主義」を示す« -isme » が付いた語で、通常「日本趣味」などと訳されます(英語では「ジャポニム」Japonism)。わたしたち日本人が「ジャポニスム」という言葉を聞いてまず思い浮かベるのは、おそらく、歌川広重を模して描かれたゴッホの《雨の大橋》《梅の花》や、モネの《ラ・ジャポネーズ》のように、フランスの印象派の画家たちが熱狂し影響を受けた、北斎や広重らの浮世絵の世界ではないでしょうか。

 まずは « Japonisme » の語の定義を見てみましょう。言語学者で哲学者のエミール・リトレ(1801-1881)の歴史的な業績として知られる、19世紀を代表する『フランス語辞典』Dictionnaire de la langue française(全4巻、第2版1873-77、通称「リトレ辞典」)には、まだ « Japonisme » という項目はありませんでした。同じリトレ辞典の20世紀に入ってからの版(全7巻、1956-58)では、最初に「新語Néologisme」と記載があり、「日本の芸術家が用いたデッサンや装飾品への趣向やその実践」と定義されています。また最初期の使用例として、作家のE. ベルジュラBergerat が1876年に官報に書いた一文が紹介されています。フランスの代表的な国語辞典プチ・ロベールPetit Robert で « Japonisme » を引くと、「Goût pour les objets d’art japonais / Influence japonaise sur l’art occidental ──日本の美術工芸品への趣向/西洋美術への日本の影響」とあります。別の辞典プチ・ラルースPetit Larousse では「Mode et influence des oeuvres et objets d’art du Japon en Occident(surtout pendant la seconde moitié du XIXe siècle)──西洋における、日本の芸術作品や工芸品の流行や影響(とりわけ19世紀後半)」と定義されています。

 なぜ19世紀後半かといえば、幕末に日本が開国したちょうどその頃、欧米では盛んに万国博覧会が開かれており(1962年ロンドン、67年パリ、73年ウィーン、76年フィラデルフィアなど)、それが日本の芸術発見の主な舞台となって20世紀初頭まで続く欧米での「ジャポニスム現象」へと繫がったからです。

◎Japonisme からJaponismes へ

 « Japonisme » は、語源としては19世紀後半のヨーロッパでの日本美術ブームを指しますが、広くは今日にまで至る日本の文化芸術全般への趣向を指してもいます。そもそもフランス語の « art » は美術だけでなく、文学・音楽・映画また最近ではマンガなど、様々な芸術ジャンルを包括する言葉であり、また技術・技(わざ)・様式など幅広い意味をも含む言葉です。近年のフランスにおける空前の日本食ブームとも相まって、ジャポニスムは生活文化にまで広がりを見せています。

 フランスでは、日本のマンガやアニメがもはや単なるブームではなく、若い世代の人々の文化の中に着実に根付いている印象を受けます。2000年にスタートした、マンガ、アニメ、テレビゲーム、武道、音楽など日本のポップカルチャーに関する総合イベント「ジャパンエキスポJapan Expo」も、年々規模を拡大し、今では毎年20万人以上の観客動員数を誇る盛り上がりを見せています(今年は7月5 ~ 8日に開催)。いま、「ネオ・ジャポニスム」とも言える波が確実に訪れています。

 そんな中、日仏修好160年を迎える今年、パリを中心にフランス国内で、日本の芸術と文化を幅広く紹介する今世紀最大規模の祭典「ジャポニスム2018」が、7月から来年2月までおよそ8か月にわたって開催されます。古くは日本文化の原点とも言うべき縄文から伊藤若冲、琳派、藤田嗣治、安藤忠雄そして最新メディア・アート、アニメ、マンガまで、さらには文楽、歌舞伎から現代演劇や初音ミクに至るまで、多様性に富んだ日本文化の魅力が紹介されます。同時に、食や祭りなど日本人の日常生活に根ざした文化をテーマにした様々な交流イベントも予定されています。« Japonismes » と複数形になっているところにも、その多様性が象徴的に表れています。展覧会、舞台公演など公式企画だけでも50以上(下記公式企画一覧参照)、さらに応募を受けて認定された80の参加企画も、今後その数はますます増えていくことが予想されます。

◎ジャポニスム2018の発端とコンセプト

 「ジャポニスム2018:響きあう魂」は2016年5月に安倍総理大臣とフランスのオランド大統領(当時)の合意によりその実施が決定し、その後、マクロン大統領に引き継がれました。サブタイトルの「響きあう魂」には、この世紀のビッグプロジェクトのふたつの重要な意味が込められています。一つは、過去から現代までさまざまな日本文化の根底に存在する、自然を敬い、異なる価値観の調和を尊ぶ「美意識」を発信すること。もう一つは、フランス──日本文化のもっとも良き理解者であり、歴史・技術・文化・哲学において世界でも突出したフランス──と日本とのそれぞれの感性を共鳴させること。両国にとって、これまで以上にたがいの理解を深め合う機会となるでしょう。文化芸術を通して日本とフランスが感性を共鳴させ、協働すること、さらには共鳴の輪を世界中に広げていくことが期待されます。

◎4つの柱──展覧会・舞台公演・映像・生活文化


『地獄谷温泉 無明ノ宿』(撮影:杉能信介)

 この7月にいよいよ本格始動した「ジャポニスム2018」は、パリ市内を中心に100近い会場で開催されます。プロジェクトを統括している国際交流基金ジャポニスム事務局の増田是人(これひと)事務局長によれば、「今フランスでは、ジャパンエキスポに加え、茶道や生け花といった伝統文化からコミック関連のものまで、現地の人による日本イベントがフランス各地で日常的に催されている」とのこと。「このように日本文化の理解の素地が十分に整った上で、それぞれの企画についてはフランス側と頻繁に協議を重ね、合意の上で内容を決めており、理想的な日仏のパートナーシップが築けている」ということで、公式企画のラインナップを見ていても、なるほどわれわれ日本人も羨ましく思うような、魅力的な企画がずらりと並んでいます。

 企画は主に、「展覧会」「舞台公演」「映像」「生活文化他」の4つの柱に分けられていますが、中でも注目したいのは「舞台公演」。内容の幅の広さとその企画の点数には圧倒されます(下記参照)。雅楽、能楽、文楽、歌舞伎、京舞といった古典的な和の舞台がある一方で、野田秀樹『贋作 桜の森の満開の下』、宮城聰『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』といった第一線の演出家による作品や、「現代演劇シリーズ」として岡田利規、松井周、藤田貴大、岩井秀人、飴屋法水、タニノクロウといった近年の岸田戯曲賞受賞作家たちの作品が並びます。さらに、音楽公演では、世界を魅了する和太鼓集団DRUM TAO のフランス初公演やセーラームーンの2.5次元ミュージカル、バーチャル・シンガー初音ミクのヨーロッパ初となるコンサート、石野卓球によるテクノ・イベントなどが。雅楽の演奏グループ伶楽舎とダンサー森山開次の舞台や、宮本亜門演出の能楽と3D映像を融合させた『YUGEN 幽玄』、日本を代表する現代美術家・杉本博司による壮大な舞台空間で狂言師野村万作・萬斎・裕基の親子三代が繰り広げる『三番叟』などの、コラボレーション企画も目を引きます。

 フランスから世界に向けて発信される「ジャポニスム2018」は、2019年にはアメリカと東南アジア、2020年には日本国内でのイベントへと踏襲される予定。今後の展開がますます注目されます。

(編集部)

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Japonismes 2018 公式企画一覧(2018年6月末現在、開催順)

【展覧会】
「teamLab:Au-delà des limites(境界のない世界)」展/「池田亮司| continuum」展/「Enfance/ こども時代」展/ルーブル美術館・ピラミッド内特別展示 名和晃平 彫刻作品“Throne”/「深みへ―日本の美意識を求めて―」展/「井上有一 1916-1985 書の解放」展/「若冲―〈動植綵絵〉を中心に」展/「香取慎吾 NAKAMA des ARTS」展/「安藤忠雄」展/「明治」展/「縄文」展/「京都の宝―琳派300年の創造」展/「ジャポニスムの150年」展/「MANGA ⇔ TOKYO」展/「藤田嗣治」展/「古都奈良の祈り」展 

【舞台公演】
邦楽ライブ 和太鼓×津軽三味線/和太鼓 DRUM TAO 『DRUM HEART』/【2.5次元ミュージカル】ミュージカル『刀剣乱舞』~阿津賀志山異聞2018 巴里~/宮本亜門演出 能× 3D映像『 YUGEN 幽玄』/雅楽宮内庁式部職楽部/松竹大歌舞伎(『かさね』『鳴神』)/日仏ダンス共同制作 トリプルビル/野村万作・萬斎・裕基×杉本博司『ディヴァイン・ダンス 三番叟』/[現代演劇シリーズ]リーディング 飴屋法水作『ブルーシート』、前川知大作『散歩する侵略者』/[現代演劇シリーズ]タニノクロウ演出『 ダークマスター』『地獄谷温泉 無明ノ宿』/ジャポニスム2018 テクノ・イベント(テクノ・コンサート、Tokyo HIT vol.3 クラブ・イベント feat. 石野卓球)/野田秀樹演出『贋作 桜の森の満開の下』/ファブリック・シャイヨー/ 島地保武 ダンス創作のためのレジデンス・プログラム/コンテンポラリーダンス―川口隆夫『大野一雄について』/[現代演劇シリーズ]松井周演出『 自慢の息子』/文楽/伶楽舎×森山開次/太鼓 林英哲と英哲風雲の会/日本舞踊/[現代演劇シリーズ]岡田利規演出『三月の5日間』リクリエーション、『プラータナー:憑依のポートレート』/[現代演劇シリーズ]木ノ下裕一監修・補綴 杉原邦生演出・美術 木ノ下歌舞伎『勧進帳』/【2.5次元ミュージカル】“Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Live /宮城聰演出『 マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』/[現代演劇シリーズ]藤田貴大演出『書を捨てよ町へ出よう』/[現代演劇シリーズ]岩井秀人構成・演出『ワレワレのモロモロ ジュヌビリエ編』/ HATSUNE MIKU EXPO 2018 EUROPE /ジャズ 小曽根真 featuring No Name Horses/コンテンポラリーダンス―伊藤郁女×森山未來/能楽/蜷川幸雄演出『海辺のカフカ』/ 2018 ジャポン×フランス プロジェクト(日本の障害者による舞台芸術の発信/瑞宝太鼓 in フランス)

【映像】
河瀨直美監督 新作『Vision』特別上映/日本映画の100年/テレビ日本月間/ KINOTAYO 現代日本映画祭/『歌舞伎役者 片岡仁左衛門』特別上映会/河瀨直美監督特集 特別展・特集上映/『FOUJITA』特別上映会 

【生活文化 他】
「日本の食と文化を学ぶ」シリーズ(日本食アトリエ〈子供向け〉、日本食アトリエ〈調理師学校・シェフ向け〉、日本茶アトリエ)/「日本の食と文化を楽しむ」シリーズ(酒巡り in Paris、日本のお酒試飲の夕べ、日本茶月間)/「日本の食と文化を考える」シリーズ(Pompidou Extra Festival!「亡霊の饗宴」、日本へのクリエイティブな旅展、食文化シンポジウム、日本茶講演会)/エッフェル塔特別ライトアップ〈エッフェル塔・日本の光を纏う〉/伝統工芸シリーズ(匠の技と美、日本の木で繋ぐ「和」の空間、伝統と先端と―日本の地方の底力)/禅文化週間/スポーツ交流/地方の魅力―祭りと文化/柔道/いけばな/茶の湯/講演会「クローデルの『繻子の靴』」/俳句討論会「クローデルの日本―『百扇帖』をめぐって」/講演会「ジャポニスム:北斎とセザンヌ」/シンポジウム「グローバル・プレイヤーとしての日仏協力:日仏協力の現実と未来」/シンポジウム「日本人が見たフランス、フランス人が見た日本」/高校生プレゼンテーション発表会「日仏交流 この人に注目〜ジャポニスム2018につながる人と歴史」

──他に特別企画、参加企画多数

ジャポニスム2018公式サイトhttps://japonismes.org/

『ふらんす』2018年8月号では、岡田Victoria朋子さん「日本をテーマにした多種多様な展覧会」、Dimitri Ianniさん「ヌーヴェル・ヌーヴェルヴァーグから独立系日本映画の新世代へ」、関口涼子さん「フランスにおける日本の食文化」の各寄稿も掲載しています。ぜひあわせてご覧ください。

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