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「アクチュアリテ 食」関口涼子

肉や魚を一切出さない野外フェス


野外音楽フェス「We love green」
©︎Mickaël A. Bandassak


野外音楽フェス「We love green」
©︎Mickaël A. Bandassak

 数年前この欄で「We love green」というフェスティバルの試みを紹介した。毎年初夏に開催される大規模な野外音楽フェスで、朝から晩まで行われるコンサートだけではなく、「We love green」という名前の通り、多くの自然保護NGOとパートナーシップを組み、思想家や科学者、ジャーナリストによる広く環境問題に関するトークを企画し、エシカルでヘルシーな食のスタンドを提供したことで評判をさらに高めたイベントだ。コロナの困難な時期を乗り越え、今年はさらに大胆なアプローチを行う。なんと、開催期間中提供される料理を100%ベジタリアンにするというものだ。11万人の入場客数を誇るイベントでは驚くべき決定で、当然、フランスでも初めての取り組みだ。

 このフェスティバルには、毎年多くのレストランが出店の応募をしている。集客も見込めるし、名前を知られる良いきっかけになるからだ。これまでも、出店採択の基準として、環境に配慮した取り組みをしているとか、地産地消の素材を使用しているなど、エシカルな店が選ばれる傾向にあった。

 今回は、カンカルの二つ星レストラン「コキヤージュ」のシェフ、ユゴ・ロランジェを選考委員長に50件のレストランが選ばれた。韓国、フィリピン、デンマーク、マリ、ギリシャ、イスラエル、イタリアなどの各国料理、「セプティム」のようにどちらかといえばガストロノミーにちかいレストランが提供するスタンド、誰にも人気のピザやバーガーなどから、変わったところではアフリカンヴィーガンのスタンドもある。飲み物も、クラフトビール、シードル、ナチュールワインなど、大企業の提供する商品ではなく、小生産者の商品が選ばれている。

 提供される料理にも様々な条件が科されている。季節の素材を使うこと、使用素材の8割がフランス産であること、外国産の素材を使う場合には理由を明確にすること(フランスでは手に入らないなど)、使用素材の6割がオーガニック、または小生産者のものであること、工場生産の加工商品を使用しないことなどだ。なんだか堅苦しい感じがするかもしれないが、実際には、若者に人気のレストランが、この機会にプラントベースの料理を提供する場合が多く、コンサートの観客にとっては、一度行ってみたかった店の料理を気軽に食べられる格好のチャンスなのだろう。キーワードになるのはベジェVéGé(végétal、植物性素材の料理を意味する省略語)ストリートフード。美味しく楽しく食べられて、しかも地球に優しく、体にもいい、といいことづくめだ。

 若者の方がエコロジーの意識が高いヨーロッパ。もちろん、環境問題に興味がない人たちを啓蒙する意味もあるのかもしれないが、そもそも若い世代の方がこのような試みを抵抗なく受け入れる傾向にあるからこその思い切った企画なのだろう。今年は6月2日から4日まで、パリに接するヴァンセンヌの森で行われた。

◇初出=『ふらんす』2023年7月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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