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「アクチュアリテ 食」関口涼子

2017年10月号 フランスのパンを巡る新たな動き

フランスのパンを巡る新たな動き

 フランスといえばパン大国のイメージが強いが、その消費量は減少する一方だ。しかしそれだけに一層、特に都市部ではパンの多様性に対するこだわりが見られる。全粒粉、そば粉のパン、または米粉を使ったグルテンフリーのパンは珍しくないし、最近はバゲットよりもパン・ド・カンパーニュを供したり、パン屋に粉を持ち込んで焼いてもらったり、自家製のパンを提供するレストランもある。
 そういったパンの新しい動向を追ったTronches de pain(パンのさまざまな顔)が出版された。著者の一人マリー・ロシェには、自然派ワインに関する著書もあるが、どちらもフランスの食の土台となる発酵食品であることから興味を持ったのだという。
 この本では、在来種、古代種を有機農法で栽培する農家とのネットワークを持ち、石臼挽きや天然酵母発酵など、伝統的製パンを実践するフランス全土のパン職人60 人近くを紹介している。彼らのプロフィールは様々だ。近代的な製パン学校卒業後、独学で伝統的パン作りを学んだ職人もいるし、会社勤めからパン職人に鞍替えした人もいる。自ら小麦を栽培し粉に挽き、製パンから販売まで全行程を行う職人もいれば、店を持たず注文でパンを焼く職人、市場や自然食品店、レストランにパンを卸す人もいる。パン・ド・カンパーニュの先駆けとして日本でも有名な老舗パン屋「ポワラーヌ」は、すでに三代目、200 人の社員を抱えながら天然酵母の自然発酵で石窯焼きのパンを続けているが、それ以外の多くは、一人または家族経営の、環境や健康に対する高い意識を持つ若い世代だ。

 


本に掲載されているパン職人が集まっての試食会

  本のタイトルが示すように、掲載されている職人のパンには個性があり、一度食べたら、あの職人が作ったパンだとすぐに思い出せる。フランスのパンには希望が持てますね、という感想に、著者のマリー・ロシェは少し顔を曇らせた。大量生産のパンに比べ価格の高いパンには今もハンデがあり、在来種小麦に対する様々なプレッシャーもある。メディアで謳われているのと異なり、有機産品の消費の割合は今でも2 パーセント前後に過ぎないという統計もある。「この本が、フランスの伝統的な製パンに関わる最後の証言になってしまうかどうかは、消費者の意識にかかっている」との彼女の言葉は重い。

◇初出=『ふらんす』2017年10月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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