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「アクチュアリテ 食」関口涼子

パリに登場した新たな食の空間


新しい食の空間「フード・ソサエティ・パリ」
©︎Studio Slurp

 パリにまた新しい食の空間が誕生した。14区に出来た「フード・ソサエティ・パリ」だ。3500平米という巨大な空間に15軒のレストラン、カクテルバーやワインセラー、スイーツ店やコーヒーショップまでを備え、年中無休のサービスを行なっている。

 料理のテーマは、ローカルストリートフード。100パーセント手作りで、生産者からの直接取引に努め、パリ近辺で作られた野菜や商品を材料に使うというのが謳いだ。これは、業者向けの加工食品を利用しているレストランが多いことへの批判的メッセージを含むと同時に、ストリートフードはチープでヘルシーではないというイメージを変えようとしてのものだろう。モロッコ料理の「イェンマ」やバーガー専門店の「ブレンド」など、パリにすでに存在する店が支店を出すほかにも、ペルー料理、韓国料理や、シリア風サンドイッチ、ナポリ風ピザなど多様な国の料理が並ぶ。また、テレビで人気の若いシェフ、アドリアン・カショがタパスバーを担当したり、イタリア料理の「オステリア・フェラーラ」や、モリ・サコ(ミシュラン一つ星)などが、本店舗とは異なる、カジュアルな料理を提供する。それ以外にも、生牡蠣のスタンドなど、小規模の漁師からの仕入れを優先する魚料理の店もある。

 面白いのは料理の頼み方だ。この巨大な会場のどこでも好きなところに座ったら、QRコードをスキャンして、好きなものをダイレクトに携帯から注文する。料理ができたらメッセージが届くので、直接該当するスタンドに料理を取りに戻ればいいだけだ。このシステムのおかげでスタンドの前に長い列を作って並ぶ必要はない。QRコードで各自がメニューにアクセスするのは、コロナの時期にソーシャルディスタンスを図って多くのレストランで導入されたシステムだが、ここでもそれが活用されている。

 こういった場所は今までにもパリ・リヨン駅の「グラウンド・コントロール」が一定の成功を収めており、そうした例に倣っているのだと言えるだろう。また、フードソサエティは、すでにリヨンのパールデュー駅に、パリよりはだいぶ小さいが同じコンセプトのフードコートをオープンしている。プラスチックを使わない試みも最近のこういったスペースでは一般的になりつつある。そういう意味では、とびきり画期的なスペースではないかもしれないが、モンパルナス駅近くの地域は、これまで新しいレストランなどの動きからは比較的取り残されがちだった。そこに今をときめくレストランが揃い踏みで現れたのは魅力的だ。しかも朝8時、コーヒーショップでの朝食から日中の軽食、夕方のアペリティフから夜中の1時まで空いているバーと、一日中、年中無休で幅広く使うことができるのはありがたい。若い世代のナイトライフを右岸から左岸へと動かせるかどうかは今後見ものだが、何かと便利に利用でき、人を集める場所になることは間違いないだろう。

◇初出=『ふらんす』2023年3月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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