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「アクチュアリテ 食」関口涼子

2018年1月号 パリのイタリアンレストラン


©Mickaâl A. Bandassak

 パリは長い間、イタリア料理の美味しくない街として知られていた。パリを旅行した際、茹で過ぎのパスタ、生気のないリゾット、判を押したようなメニューに失望した人も少なくないだろう。

 その状況は最近大きく変わりつつある。パリの外食業界の変化の1つとして、イタリア料理の台頭があるのだ。本格的なピザ、パリジャンが長蛇の列を作る(!)大衆的な店から地方料理、高級店まで選択肢が広がっただけではなく、高い品質を誇る食材店も出てきたし、イタリアのオーガニックワイン(隣国なのになぜか日本と同じ価格ではあるが)、プンタレッラやトレヴィーゾなどイタリア野菜もあちこちに見かけるようになってきた。

 パリ12 区でレストラン「パッセリーニ」を経営するローマっ子のシェフ、ジョヴァンニ・パッセリーニは、以前はフレンチテイストのイタリアンを供していた。現在のレストランを開いて初めて、イタリアのエスプリともいうべき子羊の臓物料理や、 鳩やカモを丸ごと一羽、その血、内臓から肉までを、パスタとグリルで楽しむサービス方法を始めたのだった。

 「前のレストランでは、全員同じメニューだったので、思い切った料理は出せませんでした。トリッパなどは、裏メニューとして出していたのです」と彼は言う。「普通のパスタはないのか」という客は今でも多いというが、彼は、「お客さんの味覚を広げるのも僕の仕事」と話す。ローマ、ナポリ近辺の地方料理が自分のアイデンティティを構築しているというジョヴァンニは、同時に、材料を全て現地から調達することにはこだわらない。イタリア料理は素材だけではなく、ある種の「物の考え方」。必ずしもモッツァレッラが使われているからイタリアン、なのではなく、ある種の調理の仕方、材料の組み合わせ方、火入れ、そういったものが、イタリア料理をイタリア料理あらしめているからだという。

 様々な国の料理を楽しめるフランスではあるが、実はその1つ1つを取ってみると、例えば、アルジェリア料理、ヴェトナム料理なども、本当に深く紹介され、食されているとは言えない。フランスとの歴史、関係の深いイタリアではあるが、新しい段階に至るまでこれだけの時間がかかったとは、食文化理解の複雑さを思う。

レストラン「パッセリーニ」
Passerini 65, rue Traversière 75012 Paris
http://www.passerini.paris/

◇初出=『ふらんす』2018年1月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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