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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

フランス文学界、衝撃の実話を映画化


Le Consentementポスター

 2020年にフランスで出版され衝撃を与えたヴァネッサ・スプリンゴラの自伝、『同意』を映画化したLe Consentementが公開され、ソーシャルネットワークを中心に大きな話題を集めている。口コミで週を経るごとにじわじわと動員数が上がっているところを見ると、このままロングランヒットを続けそうだ。

 内容はスプリンゴラが14歳から実際に経験した、35歳年上の著名な作家、ガブリエル・マツネフから受けた性的搾取の実態を赤裸々に語ったものである。

 1985年、出版社で働いていた母親に同行したパーティで、ヴァネッサ(キム・イジュラン)は、射抜くような眼差しで彼女を見つめるガブリエル(ジャン=ポール・ルーヴ)に出会う。その後ガブリエルは情熱的なラブレターを彼女に送るようになり、さらには中学の校門で彼女の下校を待つ。「君は特別な存在だ」「僕らの関係は純粋な恋愛だ」という彼の巧みな言葉と社会的な名声に圧倒され、文学好きな少女であったヴァネッサは、これが運命の出会いと信じて彼に身も心も捧げる。だが、次第に彼の「未成年性愛者」としての評判が耳に入る。

 本作は正真のホラー映画だ。まるで狼に食べられる赤ずきんのような、彼女の転落を観客は目撃する。だがガブリエルの巧妙さは、決して相手の「同意」なくして襲いかかったりはしないことだ。餌を撒き、初心な少女が自ら心を開くまで、じっくりと待つ。言葉を操る彼にとって、思春期の少女の心を翻弄することなど朝飯前であっただろう。

 ヴァネッサ・フィロ監督(『マイ・エンジェル』2018)は、このデリケートな題材を譲歩することなく、しかし映像的な慎みを保って的確に描写する。ジャ
ン=ポール・ルーヴはこれまでどちらかといえばコメディ俳優として人気を得てきたが、ここでは一変して、モラルのない人間の極悪さを曝け出す。本作が初の主演となったキム・イジュラン(シャンソン歌手ジャック・イジュランの孫)の体当たりの演技も胸を突く。

 驚くのは、小児性愛者として知られその体験を自身の小説に応用し続けていたマツネフが、罪を問われなかったばかりか、作家として賞賛されていたことだ(彼の犯した行為は時効を迎え、現在イタリアで隠遁生活を送っているが、著書を刊行した出版社数社は販売を停止した)。今日、少なくとも世界の見方が変化しつつあることはせめてもの慰みと言えるかもしれない。

◇初出=『ふらんす』2024年1月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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