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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

仏映画界にもコロナウイルスの打撃

 まるで山火事のような勢いでヨーロッパ中に飛び火した新型コロナウイルスの脅威は、フランス映画界にも大きな影響を及ぼしている。刻一刻と変わる状況のなか、3月上旬には、公開延期を決めるフランス映画が続出した。たとえば2月のベルリン国際映画祭に出品さ れたアンヌ・フォンテーヌのPolice(「ポリス」)、フィリップ・ガレルのLe Sel des larmes(「涙の塩」)、ブノワ・デレピーヌとギュスタヴ・ケルヴェルンのEffacer l’historique(「履歴削除」)。他にもイザベル・ユペール主演、ジャン=ポール・サロメのLa Daronne(「ダロンヌ」)、シャルロット・ゲンズブール主演、ブノワ・ジャコのSuzanna Andler(「シュザンナ・アンドレール」)が秋以降に延期になった。

 3月14日にはさらに追い打ちをかけるように、仏政府の決定により映画館を含む商業施設が休館を余儀なくされた。いつ再開するかはコロナの状況次第と言われている。

 そんななか、休館寸前に公開になった話題作が、ランベール・ウィルソンがド・ゴール将軍に扮したガブリエル・ル・ボマンのDe Gaulle(「ド・ゴール」)と、マルタン・プロヴォのLa Bonne Épouse(「良妻」)。前者は第二次世界大戦中、戦況が悪化していくなか、南仏に家族を残したド・ゴールが、ヴィシー政権の目を掠めてロンドンに渡り、亡命政府を結成する時期に焦点を当てている。政治家としてのド・ゴールの顔と、愛妻家だった彼の家族との絆が平行して描かれるものの、どちらかといえば家族ドラマに趣が置かれた印象。脱出劇などのスリルはあるものの、硬派な政治ドラマを期待すると、やや物足りないかもしれない。


La Bonne Épouseのポスター

 『ルージュの手紙』のプロヴォ監督の新作は、60年代末の田舎町で、女子の寄宿学校(家庭科を教えるいわゆる花嫁修業学校)を経営する夫人(ジュリエット・ビノシュ)の物語。ある日校長である夫が急逝したことで、彼女と学校の運命も左右される。時代の過渡期を舞台に、因習に従っていた女性たちが、フェミニズムに目覚めていくさまを描いているのがこの監督らしい。ビノシュが久々に軽妙な役柄を演じ、カラフルでポップな作りが目にも楽しいコメディである。

 もっとも、両作品とも公開直後に中断されてしまったのは不運としか言いようがない。早く再開できる状況になることを祈るばかりだ。

◇初出=『ふらんす』2020年5月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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