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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

ヴァカンス気分を味わえる夏の映画

 ヌーヴェルヴァーグの遅咲きの俊英と言われたエリック・ロメールは、ヴァカンスのちょっと浮ついた空気を映画に取り込むのが巧かった。若々しいリセエンヌに惹かれる膝フェチの男を描いた『クレールの膝』、夏着を纏(まと)った従姉妹が胸騒ぐ出会いに翻弄される『海辺のポーリーヌ』、避暑地のひと夏の恋の鞘当てを題材にした『夏物語』。こんがりと日焼けした彼女たちが潮風と眩しい光のもとで戯れる様は、控えめな官能性をも漂わせ、観ているだけで開放的なヴァカンス気分を味わえた。

 そんなロメール映画を継承するような監督が、『遭難者』『女っ気なし』『やさしい人』で若手世代のホープと目されるギョーム・ブラックだ。『女っ気なし』はまさに、海辺のヴァカンスを舞台にした作品だった。そしてこの夏、彼が再びヴァカンスを題材にした夏シリーズとも言える2作品が相次いで公開になった。

 L’Ile au trésor(「宝島」)はパリ郊外にあるアミューズメント・パークを舞台にしたドキュメンタリー。日本のテーマパークとは異なり、乗り物のアトラクションが並ぶというより、湖や森に囲まれ自然のなかでアドベンチャーを楽しむ場所だ。ブラックはここにカメラを持ち込み、訪れる客たちのそれぞれの表情を掬すくいとる。あわよくば女の子をナンパしようとする若者、入場券を買わずに忍び込もうとする少年など、さまざまな微笑ましいシチュエーションが淡々と映し出される中で、夏のゆるやかな時間が差し出される。


L'Ile au tresor

 もう一作、Contes de juillet(「7月の物語」)は7月14日の革命記念日をパリで過ごす留学生を描く。パレードや花火といった風物詩を背景に、ちょっとした出会いから始まる一日をスケッチのようにまとめたドラマ。男女の機微、女同士の微妙な嫉妬など、軽いタッチのなかにも細やかな人間観察を感じさせる。

 夏は旧作のリバイバルが多いが、アニエス・ヴァルダの『歌う女・歌わない女』(ʼ77)も修復版が劇場リリースされた。ヴァルダのフィルモグラフィのなかではあまり知られておらず、公開当時はフェミニスト映画というレッテルを張られヒットしなかったようだが、いま観ても彼女らしい、見応えのある作品である。演劇が好きで歌手になる自由な女性ポーリーヌと、不倫の相手の子どもを生んで苦労が絶えないスザンヌという、ふたりの女性の交流を通してこの時代の女性の境遇、自身の幸せを求めて格闘する女性たちを力強く描く。ナレーションをヴァルダ自身が担当し、ヒロインの娘に扮したヴァルダの実娘ロザリーのクローズアップで終わるラストに、母から娘に当てたメッセージが示唆されているようで、感慨深い。

◇初出=『ふらんす』2018年10月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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