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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

2018年1月号 いま注目の新人監督たち

 これまでどちらかと言えば、日本でも馴染みのある監督や俳優たちの話題作を紹介することが多かったが、今回はいま注目されている新人監督たちの作品を取り上げたい。国による映画制作の援助システムがしっかりしているフランスでは、新人監督は比較的デビューしやすい。その多くは、短編を何本か撮って鍛えてから長編に移行するというパターン。だから長編一作目といえど、見応えがあるものも少なくない。前号で触れたPetit paysan(しがない農民)もその例だ。ここではさらに3 本ご紹介しよう。


Jeune femme(若い女性)

 ひとつは今年のカンヌ映画祭で初長編作品に与えられるカメラドール賞に輝いた、レオノール・セライユのJeune femme(若い女性)。恋人から絶縁され、猫と荷物を抱えていきなり路頭に迷うことになった主人公のポーラ。だが、絶望的な状況のなかでも機転とユーモア、ちょっとの図々しさで、彼女はたくましく切り抜けて行く。そんなヒロインをエネルギッシュかつ繊細に描いた演出によって、観ているうちにどんどん彼女のことが愛おしく感じられてくる。ポーラ役のレティティア・ドシュも、徐々に綺麗になっていくヒロインの変化をあますところなく体現し、脚光を浴びた。

 アブデラティフ・ケシシュの『身をかわして』で俳優デビューした、現在32歳のラシド・アミの初長編監督作La Mélodie(メロディ)は、人気コメディアン、カド・メラドを主演に据えた学園ものだ。といってもコメディではなく、『パリ20 区、僕たちのクラス』のような路線である。HLM(低所得者向け公団)が立ち並ぶパリ郊外を舞台に、ヴァイオリンに目覚めた少年が、音楽教師の助けを借りてコンセルヴァトワールを目指す。これまでのイメージとは異なり、生真面目で実直な教師を、メラドが人間的な魅力豊かに好演している。彼をこの役に抜擢した監督の慧眼を感じさせるとともに、低所得者層の現実を描きつつ、紋切り型の社会派ドラマに陥ることを逃れているところにも手腕を感じさせる。

 さらに独戧的なのが、俳優として知られるエリック・カラバカの長編2 作目にしてドキュメンタリーのCarré 35(35区画)。幼くしてこの世を去り、長いあいだその存在すら知らされていなかったカラバカの姉について、彼自身が親族にインタビューをしながら辿ったパーソナルな作品だ。写真さえ残されておらず、亡霊のように彼の心に取り憑いていた姉のことが明らかになっていくなかで、家族の事情、関係者の切実な思いが浮かび上がる。ドキュメンタリーとしての面白さとともに、暗い影を帯びたミステリーの雰囲気をたたえ、批評家からも好評を博している。

◇初出=『ふらんす』2018年1月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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