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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

国際音楽コンクールで聴衆が抗議

 11月8日からパリで行われていたロン・ティボー・クレスパン国際音楽コンクールは同16日、ファイナル2日目の後に結果発表があり、1位に三浦謙司(みうらけんじ)、2位に務川慧悟(むかわけいご)が入賞した。ファイナルの様子はインターネット配信されていた(現在もMedici.tv 他で視聴可能)のでご覧になった方もいると思うが、結果発表の際、審査団の決定を不服とする聴衆がブーイングを飛ばし、その後もソーシャルネットワークなどを通して決定について様々な憶測や意見が飛び交った。

 芸術監督で審査員のベルトラン・シャマイユが「できるかぎり公正な判断ができるように」と考えて世界で活躍する大ピアニストたちを集めた審査団による決定は、覆せるものではないが、コンクール直後の現時点(11月末)で取り上げられている問題は、多くの国際コンクールに共通することでもあり、熟考と改善は必至だ。

 まず、審査委員長のマルタ・アルゲリッチ氏はファイナルの第2段階であるコンチェルトにしか出席しなかった。名実ともに世界最高峰の演奏家である彼女の存在はコンクールに威光を添えるものであることは間違いないが、全体を通して聴けないならば、名誉審査委員長とした方がよいのではないか。

 コンクール全体を聴いた筆者の感想では、参加者のレベルは非常に拮抗しており、日々予想が目まぐるしく変わる状態で、順位をつけるのは大変に難しかった。ファイナルでもずば抜けて誰もが納得する演奏をしたコンペティターはおらず、それならばいっそのこと1位はなしにして2位以降を同位などにするべきだったのではないだろうか。

 聴衆の多くは最終段階であるファイナルのリサイタルとコンチェルトのみを聴いて不服を表明したが、誰もが各段階を通して自分の意見を主張できるよう、近年多くの国際コンクールが行なっているように、何らかの形で第1段階からネット配信をすることが望まれる。

 有望と思われた参加者が次の段階に進めないことは常にあるが、今回ファイナルに残った15歳の少女と、明らかに彼女より成熟度が高い数名の参加者が1次やセミファイナルで落とされたことはどう説明するのだろうか。多くの疑問と課題を残したコンクールだった。


結果発表での入賞者と審査員
© Droits Réservés

◇初出=『ふらんす』2020年1月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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