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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『英雄は嘘がお好き』

映画『英雄は嘘がお好き』


© JD PROD - LES FILMS SUR MESURE - STUDIOCANAL - FRANCE 3 CINEMA - GV PROD

+ 監督:ローラン・ティラール Laurent Tirard
+ ヌヴィル大尉:ジャン・デュジャルダン Jean Dujardin
+ エリザベット:メラニー・ロラン Mélanie Laurent

2019年10月11日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、丸の内TOEIほか全国順次公開

配給:松竹

[公式HP]http://www.eiyu-uso.jp

 映画『アーティスト』でフランス人俳優として初のアカデミー主演男優賞を受賞したジャン・デュジャルダンのコメディ最新作。

 1809年、フランスのブルゴーニュ地方。ボーグラン家令嬢のポリーヌはヌヴィル大尉から求婚されるが、その直後ヌヴィルは戦争に駆り出されてしまう。戦地から毎日手紙を書くという約束を信じて待つポリーヌだが、一通も手紙は届かない。初めからヌヴィルの誠意を疑っていた姉エリザベットは、絶望から病にふせる妹を助けたい一心で、ヌヴィルに代わって偽の手紙を書き続け、最後は英雄として戦死したことにしてしまう。3年後、妹ポリーヌは別の男性と結婚して幸せな家庭を築いていた。そんなある日、エリザベットは町で偶然ヌヴィルに遭遇する。ヌヴィルは英雄とは程遠い惨めな無職だったが、エリザベットの噓を巧みに利用し、英雄のごとく町の人々の前に姿を現すのだった……。ローラン・ティラール監督が前作『おとなの恋の測り方』に続き、再びデュジャルダンを主役に迎え、笑いに満ちた豪華なコスチュームプレイを繰り広げる。相手役はコメディ初挑戦の知性派女優メラニー・ロランで、主演二人の丁々発止の恋の駆け引きも見どころ。原題はLe retour du héros(英雄の帰還)。

【シネマひとりごと】

 『アーティスト』のアカデミー賞受賞でフランス俳優の枠を一気に飛び越えてしまったジャン・デュジャルダン。彼はもともとお笑い役者としてお茶の間の人気者だった。コントで演じた金髪のお馬鹿なサーファー、ブリスが当たり役となり、映画化されるやたちまち大ヒット。シリーズ化されて2016年には『ブリス3』も公開された。トレードマークの黄色いT シャツはそのまま、「3」撮影時にデュジャルダンは40代半ばだったが、相変わらず身のこなしが軽く、得意のダンスと、全身を使ってのパフォーマンスで観客を笑いの渦に引き込んだ。そんなボディーランゲージに長けたデュジャルダンは、セリフのないサイレント映画『アーティスト』の主人公にうってつけだった。往年のサイレント映画俳優を彷彿させるデュジャルダンの立ち居振る舞いは、アカデミー賞の審査員たちを魅了した。フランスの(今はロシア国籍だが)自他ともに認める実力ナンバーワン俳優ジェラール・ドパルデューでさえ貰えなかったアカデミー賞を、他にこれといった主演作もないデュジャルダンがあっさりかっさらってしまったのだ。レクスプレス誌はドパルデューを超えたと報じ、デュジャルダン夫人は、アカデミー賞受賞後もフランスに残り税金を払います、と公言。重税逃れのためにロシアに国籍を移したドパルデューもこれにはひとあわ吹かせられたことだろう。本作では次から次へとほらを吹き、お調子者で人を食った主人公をユーモラスかつ軽やかに演じている。ローラン・ティラール監督から、21世紀のジャン=ポール・ベルモンドと絶賛される彼がこのまま尊大にならずに祖国フランスに税金を払い続けられるのか注目してゆきたい。

◇初出=『ふらんす』2019年10月号

『ふらんす』2019年10月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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