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「ChatGPTと語学学習」森田学

第4回 ニュアンスの違いを説明できるのか

 前回はChatGPTにイタリア語の表現を考えて(生成して)もらった。その際、どのようにしてフレーズごとのニュアンスの違いや実際の使い分けを判断すればよいのか、という問題が残された。
 ChatGPTの力量を見極めるべく使ってみる際、相手の弱点を探してやろうと矢継ぎ早に単発の質問を繰り出してしまいがちだ。しかし、ChatGPTは「高度なAI技術を駆使し、人間のように自然な会話ができるAIチャットサービス」である。ということは、分からないことをさらに質問して、それに答えるのも得意なはずだ。
 早速、前回の5つのフレーズのニュアンスの違いを尋ねてみると、

1.「Mi dispiace molto per quello che stai passando.」- このフレーズは、相手が苦しんでいることに対する共感の気持ちを表現しています。言葉通りには「あなたが経験していることにとても悲しく思います」と訳されます。
2.「Capisco che sia molto difficile per te in questo momento.」- このフレーズは、相手が現在直面している難しい状況を理解していることを表現しています。言葉通りには「この時点であなたにとってとても難しいと理解しています」と訳されます。
3.「Siamo qui per te, se hai bisogno di aiuto.」- このフレーズは、相手が助けを必要とした場合に、自分たちがその支援を提供することを表現しています。言葉通りには「あなたが助けが必要なら、私たちはここにいます」と訳されます。
4.「Non sei solo/a in questo.」- このフレーズは、相手が自分だけでないということを表現しています。言葉通りには「あなたは一人ではないです」と訳されます。
5.「Ti vogliamo bene e ti sosterremo.」- このフレーズは、相手が愛されていることと、自分たちが彼らをサポートすることを表現しています。言葉通りには「あなたを愛していて、支えます」と訳されます。


と説明してくれた。
 旅行会話に不安があるために翻訳機の助けを借りて見知らぬ土地の人たちと交流しながら旅を楽しみたい、ネットで知り合いになったイタリア語話者とやり取りをしたいけれど言葉が障壁となってあまりできていないので何とかしたい、といった目的には非常に心強い味方となってくれそうだ(毎回確実に的確で正しい表現を提示してくれているかどうかを確認することは不可能ではあるけれど)。
 実際の会話においてネイティヴが、文法的にフレーズを解析したり、文法を意識しながら話すことはないだろうが、それはすでに自らの血となり肉となった彼らの思考回路を通して、自然な表現として現れているからだ。母語(私たちにとっての日本語)の仕組みが構築された後に──母語とは言語の仕組みが異なる──外国語(イタリア語)を学ぶ際には言葉の仕組みやルールを知ることは必要かつ重要だと筆者は考えている。例えば、「2.」の「sia molto difficile とても難しいのではないかと」の部分で接続法を使うことで相手の困難を慮っていることを表したり、「5.」の「ti sosterremo あなたを支えていきます」の部分で未来形を使い──不確定要素を含む未来ではなく──そうするつもりだという意思を表すものであることが読み取れるようになったうえで、自分自身の中から湧き出てきた気持ちをフレーズにのせ、相手に伝えることができればどれだけ素晴らしいことか。
 便利さからややもすれば切り捨てられてしまう言葉の持つ魅力を、学習者にはぜひ体感してほしいと願うばかりである。

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著者略歴

  1. 森田学(もりた・まなぶ)

    昭和音楽大学准教授。専門は西洋音楽(特にイタリア声楽曲)の実践研究。主な著作に『イタリアのオペラと歌曲を知る12章』(編著:東京堂出版)、『イタリアの詩歌』(共著:三修社)、『イタリアの文化と日本』(共著:松籟社)、『イタリア語の世界を読む』(共著:白水社)、『解説がくわしいイタリア語入門』『イタリア語のルール』『イタリア語のドリル』(単著:白水社)などがある。

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