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詩・野村喜和夫×音楽・小島ケイタニーラブ×写真・朝岡英輔「花冠日乗」

(6)空隙がふえる

23
軟禁され? 放り出され?
いったいどっちがリアルなんだ

さかのぼるが
3月21日
帰国者ゆえの自主隔離に身を置くきみは
家でひとりフラメンコのレッスンを再開する
〽家で踊ろう、という脱力系の歌がYouTubeで流れ
さらにそれをBGMに、自宅ソファで寛ぐ首相の動画が流れて不評を買った
より少し前だ

4月19日
生垣から私の肩へ
コデマリの白い花が雪崩れてくる

24
近づくな
触れるな
語り合うな

じゃあ、皮膚はどこへ行くの?
私のなかの誰かが問う
人間にとって逆説的にもっとも深い部位だよね、皮膚って
そして皮膚と皮膚を触れ合わせつつ
そこに魂を生じさせ、移動させる生きもの
それが私たちだというのに

近づくな、触れるな、語り合うな

だからこれからは
空隙がふえるのだ
ひとではなく、ひとのひととの空隙が意味深いのだ
そこに花冠を沈ませるため
空隙はふえ、空隙は育ち
だが私の脳では
間違ってひとが空隙に空隙がひとに成り変わってしまう
ひとという空隙から
空隙というひとから
なおもうっすらと肉の頭があらわれ
竹、竹、竹
のようにあらわれ

朔太郎? スペイン風邪が大流行したのはちょうど百年まえ
詩人アポリネールはそれで命を落とした
花冠
切られた首

──ところで、何を根拠に「私は確実に死ぬ」といえるのですか、確かめたわけではないのに?
──たしかに、他者によってのみ私の死は確かめられます、自分では確かめられないのに、私は確実に死ぬ、この絶対矛盾に耐えられるでしょうか。



25
ふとヴィスコンティの映画『ベニスに死す』を思い出す
マーラーがモデルだという主人公が
疫病の蔓延する廃墟のような街をさまよい
最後は恍惚と
恍惚と?

4月21日
私はみた
一茎のヒメムカシヨモギが
死後硬直のように陽に許されてあるのを

26
大絶滅とは
私たちが死に絶えたあとの地表を
なおうっすらと陽は射し
ヒトの大きさの虫が這いすすむのがみえる
虫は救われて、羽を光沢ある聖書のようにひろげる

空隙はふえ、ふるえ
おお、青い花ネモフィラ

私とは叫びが
微粒子のざわめきとして絶えず耳の底に充満している
きれっきれの、沸騰しつづける臨床

 

詩:野村喜和夫(のむら・きわお)
1951年、埼玉県出身。早稲田大学第一文学部日本文学科卒業。戦後世代を代表する詩人のひとりとして現代詩の先端を走り続けるとともに、小説・批評・翻訳なども手がける。詩集『特性のない陽のもとに』(思潮社)で第4回歴程新鋭賞、『風の配分』(水声社)で第30回高見順賞、『ニューインスピレーション』(書肆山田)で第21回現代詩花椿賞、評論『移動と律動と眩暈と』(書肆山田)および『萩原朔太郎』(中央公論新社)で第3回鮎川信夫賞、『ヌードな日』(思潮社)および『難解な自転車』(書肆山田)で第50回藤村記念歴程賞、英訳選詩集 Spectacle&Pigsty(Omnidawn)で2012 Best Translated Book Award in Poetry(USA)を受賞。著書はほかに『証言と抒情——詩人石原吉郎と私たち』(白水社)など多数。2020年度から東大駒場の表象文化論コースで詩を講じている。

音楽:小島ケイタニーラブ(こじまケイタニーラブ)
シンガーソングライター。1980年、静岡県浜松市出身。早稲田大学第一文学部卒業。2016年、「NHK みんなのうた」に『毛布の日』を書き下ろす。18年、最新アルバム『はるやすみのよる』をリリース。ほかに、ミスタードーナツのCM『ドレミの歌』、読売テレビ・日テレ「遠くへ行きたい」主題歌の歌唱、映画『老ナルキソス』(東海林毅監督)の音楽など。 2011年から朗読劇『銀河鉄道の夜(with 古川日出男・管啓次郎・柴田元幸)』に出演および音楽監督を担当。13年から、温又柔とともに朗読と演奏によるコラボレーション活動pontoを開始したほか、江國香織やよしもとばななの作品に音楽をつけるなど文学の領域でも多彩な活動を展開。20年3月、初の著書『こちら、苦手レスキューQQQ!』を刊行。

写真:朝岡英輔(あさおか・えいすけ)
写真家。1980年、大阪府生まれ。埼玉県出身。中央大学理工学部物理学科卒業。松濤スタジオ勤務、写真家・藤代冥砂のアシスタントを経て独立。後藤まりこ、downy、打首獄門同好会、オガワマユ、DOTAMAをはじめとしたミュージシャンや、ポートレートの写真を撮影。2016年、音楽と旅をテーマにした初の風景写真集『it’s a cry run.』を上梓。林奕含『房思琪の初恋の楽園』(泉京鹿訳、白水社、2019年)、フレデリック・ルノワール『スピノザ よく生きるための哲学』(田島葉子訳、ポプラ社、2019年)、乗代雄介『最高の任務』(講談社、2020年)などのカバー写真を担当。

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