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詩・野村喜和夫×音楽・小島ケイタニーラブ×写真・朝岡英輔「花冠日乗」

(7)軟禁ラプソディ

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夜中にぼくはきみに語りかけたかった
とは、半世紀まえの
谷川俊太郎の詩集のタイトル
しかし私もいま、誰彼かまわず語りかけたくてたまらない
そう、黄金週間へと
ますますコロナが私を軟禁してしまったので

コロナが私を軟禁してしまったので
ディストピア研究、ディストピア探訪

コロナが私を軟禁してしまったので
むかし読んだ漫画『AKIRA』全6巻を並べて午睡する

コロナが私を軟禁してしまったので
小説『わたしを離さないで』を読んで不思議な切なさをおぼえる

コロナが私を軟禁してしまったので
映画『アウトブレイク』を観たつもりになって戦慄する

コロナが私を軟禁してしまったので
ゾンビというのは、あれはまあ、おおむね感染症のメタファーですね

でもどんなディストピアSFも
毒のある花冠に覆われたいまここのリアル
には及ばない



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繰り返そう、コロナが私を軟禁してしまったので
ほらまたちがう鳥が来ている

コロナが私を軟禁してしまったので
記憶の遠さに海があふれる

コロナが私を軟禁してしまったので
なぜ乳房なぜふたつ

コロナが私を軟禁してしまったので
そうだ毛虫を焼こう

コロナが私を軟禁してしまったので
私は扁桃体がボヤだ

コロナが私を軟禁してしまったので
老年が断崖のように輝く

コロナが私を軟禁してしまったので
胸郭に思惟の猿を招き入れる

コロナが私を軟禁してしまったので
耳の底の侏儒に逆メソッドヨガさせる

コロナが私を軟禁してしまったので
夜の青い犀とぶつくさオンラインで懺悔し合う
懺悔?

コロナが私を軟禁してしまったので
祈りの芽のあわあわと挙句どこかで羽化の音がする
羽化?
コロナが私を軟禁してしまったので
さあせめて窓を開け放ち途端キラキラとどこからか尿
尿?

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コロナが私を軟禁してしまったので
コロナが私を軟禁してしまったので
コロナが? ちがうような気もする
主語はコロナでも私でもなく、コロナをも私をも包み込む何か
を2乗して3倍のコロナの影に加えたもの
から私を引いた残り、かもしれない

ついでに
世界十大小説のひとつ
メルヴィルの『白鯨』でも読もうかと思いつつ
とりあえず軟禁を破り散歩だと
羽根木公園から梅ヶ丘駅を掠め小田急線高架下を抜けようとしたら
なんと白鯨整骨院
とあるではないか

 

詩:野村喜和夫(のむら・きわお)
1951年、埼玉県出身。早稲田大学第一文学部日本文学科卒業。戦後世代を代表する詩人のひとりとして現代詩の先端を走り続けるとともに、小説・批評・翻訳なども手がける。詩集『特性のない陽のもとに』(思潮社)で第4回歴程新鋭賞、『風の配分』(水声社)で第30回高見順賞、『ニューインスピレーション』(書肆山田)で第21回現代詩花椿賞、評論『移動と律動と眩暈と』(書肆山田)および『萩原朔太郎』(中央公論新社)で第3回鮎川信夫賞、『ヌードな日』(思潮社)および『難解な自転車』(書肆山田)で第50回藤村記念歴程賞、英訳選詩集 Spectacle&Pigsty(Omnidawn)で2012 Best Translated Book Award in Poetry(USA)を受賞。著書はほかに『証言と抒情——詩人石原吉郎と私たち』(白水社)など多数。2020年度から東大駒場の表象文化論コースで詩を講じている。

音楽:小島ケイタニーラブ(こじまケイタニーラブ)
シンガーソングライター。1980年、静岡県浜松市出身。早稲田大学第一文学部卒業。2016年、「NHK みんなのうた」に『毛布の日』を書き下ろす。18年、最新アルバム『はるやすみのよる』をリリース。ほかに、ミスタードーナツのCM『ドレミの歌』、読売テレビ・日テレ「遠くへ行きたい」主題歌の歌唱、映画『老ナルキソス』(東海林毅監督)の音楽など。 2011年から朗読劇『銀河鉄道の夜(with 古川日出男・管啓次郎・柴田元幸)』に出演および音楽監督を担当。13年から、温又柔とともに朗読と演奏によるコラボレーション活動pontoを開始したほか、江國香織やよしもとばななの作品に音楽をつけるなど文学の領域でも多彩な活動を展開。20年3月、初の著書『こちら、苦手レスキューQQQ!』を刊行。

写真:朝岡英輔(あさおか・えいすけ)
写真家。1980年、大阪府生まれ。埼玉県出身。中央大学理工学部物理学科卒業。松濤スタジオ勤務、写真家・藤代冥砂のアシスタントを経て独立。後藤まりこ、downy、打首獄門同好会、オガワマユ、DOTAMAをはじめとしたミュージシャンや、ポートレートの写真を撮影。2016年、音楽と旅をテーマにした初の風景写真集『it’s a cry run.』を上梓。林奕含『房思琪の初恋の楽園』(泉京鹿訳、白水社、2019年)、フレデリック・ルノワール『スピノザ よく生きるための哲学』(田島葉子訳、ポプラ社、2019年)、乗代雄介『最高の任務』(講談社、2020年)などのカバー写真を担当。

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