書評
【書評】杉本隆司『民衆と司祭の社会学:近代フランス〈異教〉思想史』 [評者]永見瑞木
2017年06月22日
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『民衆と司祭の社会学:近代フランス〈異教〉思想史』
杉本隆司 著
白水社 3200円+税

 

[評者]永見瑞木

 

「野生人」の宗教 VS 「司祭」の宗教

 18世紀の啓蒙思想と革命を経た19世紀前半のフランスでは、伝統的な教会の権威が失われる一方、社会の無秩序を前に、「世俗の宗教性」と呼びうる新たな精神性の追求と政治をめぐる思考がさまざまに交錯していた。本書は社会科学の誕生を、そうした時代の知的空間において捉え直そうとする野心的な試みである。ブロスやコントの訳書も手がける著者が近年発表した諸論文からなるが、一冊にまとめられることで独特な迫力が生まれている。

 最大の特色は何より、副題の示すとおり、「異教」という「他者」に対してヨーロッパ人が向けた視線に一貫して着目し、18世紀から19世紀にかけてのフランス思想史を描き切ったところにあるだろう。この切り口の魅力は、宗教/科学、信仰/理性というありきたりの二項対立を見事、解体してしまうところに存分に発揮される。

 18世紀を扱う第一部の目玉は、フェティシズム概念の生みの親であるシャルル・ド・ブロスの宗教思想にある。キリスト教神学者や理神論者がいずれも一神教原理を前提とするのに対し、ブロスは野生人と古代人の宗教をフェティシズムとして一括し、そこから多神教を介した一神教への移行を進歩として捉える。第二部の19 世紀ポスト革命期になると、この対比の延長上に、革命により解き放たれた「民衆」(野生人)と、彼らを「真の宗教」に導こうとする「司祭」(聖職団)の抗争が重ねられる。ブロスの思想を継承しつつ、コンスタンは人間の宗教感情の普遍性を認め、近代的個人の「自由な宗教」の側に立ち、聖職団の専制に強烈な批判の矢を放つ。それに対し、社会秩序の回復には何らかの「権威」の再建が不可欠と考えた人々もいた。ラムネら教権主義者にとってそれはカトリック教会であったが、サン= シモンとコントにとっては科学者集団こそが、人々の「信頼」を受けた精神的権威たるべきとされた。ここに、社会学の出発点がある。

 宗教学、政治思想、哲学、歴史学などの諸領域を自在に横断しながら綿密な分析で思想史をつむぐ著者には、ヨーロッパ近代社会が抱える宗教と政治をめぐる歴史的葛藤を明るみに出そうとする執念すら感じる。著者の熱意溢れる本書は、今日の民主社会における「信」のあり方と権威、自由の問題をも考えさせる一冊である。

(ながみ・みずき)

 

◇初出=『ふらんす』2017年7月号

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