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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

2017年4月号 市中の空洞化

市中の空洞化

 日本のシャッター商店街問題や、ドーナツ化現象と同じ問題がフランスでも地方都市を中心に起こっている。フランスの街は、旧市街と呼ばれる古い地区が中心にあり、外へ外へと広がって発展している。その旧市街地にある商店が次々に閉店し空き店舗となり、その空き店舗率は真剣に対策を打たなければならないレベルになっている。

 人口10 万人以上の自治体を対象にした調査では、空き店舗割合は2001 年で6.1 パーセント、2015 年は10.4 パーセント、その後も継続して増加しており、つまり10 軒に1 軒は空き店舗ということになる。20 パーセントを超える自治体もある。閉店した店の種類で最も多いのは、衣料品店である。

 客足が遠のく理由は、郊外の大型ショッピングセンターとネットショッピングの普及である。ショッピングセンターを利用する買い物客へのアンケートでは、駐車場が広い、店舗数が多い、一店舗当たりの商品数も豊富などの理由が挙げられている。

 広い店舗に豊富な商品、車でのアクセスもよく、雨に濡れることもなく、快適に買い物ができる。買い物には荷物がつきもの。買った物を持って車で移動できるのは、大きな利点である。それに対し、中心部の商店街では車を駐車する場所も少なく、車の乗り入れが禁止されている地区もある。これではたちうちできない。

 ショッピングセンターやネットショップの普及は、そのコスト安にある。中心部の店舗に比べ、税金や家賃が破格に安い。フランスでは、外に看板を掲げるだけで税金が課されるし、もちろん固定資産税なども中心部の方が高い。ましてやネットショップでは、返品時の送料を含めショップ側が全額負担しても、店舗を構えるのに比べ運営費は安上がりである。

 空き店舗対策に頭を悩ませる自治体は、税の軽減、助成金の設定、駐車料金の無料化などで対処している。大型ショッピングセンターの新規設立を禁止する自治体も現れた。しかし、これらの対策も焼け石に水で、消費者の流れを止めることはできない。

 買い物に限らず、中心部に住むのは高いし不便という意識が高くなり、居住者も少なくなっている。それにより、学校、郵便局、医療施設をはじめ、映画館などの娯楽施設も閉鎖の連鎖に巻き込まれ、空洞化現象が起こっている。

 地方都市に限らず、パリもその傾向がみられる。現在も自家用車の制限を積極的に推進しているが、現パリ市長が目指すのは中心部の1 区から4 区の自家用車の全面通行禁止である。空洞化を招かねば良いがと懸念する声もあがっている。

 

◇初出=『ふらんす』2017年4月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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