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姫田麻利子+Steve MARSHALL「友だちだよね? フランス語と英語のちがうところ」

第10回 あいさつや提案の表現など

 英語とフランス語では、見かけの似ている単語でも意味がちがったり、意味が同じ単語でも使い方がちがうことがあります。やっかいなのですが、それが言語の勉強の面白いところかもしれません。今月は、あいさつや提案の表現を見ていきます。

今月の表現
[フランス語の表現]             [英語の表現]
« À toute. »(じゃあね)            “See you soon.” “See you later.”
« Ça te va ? »(それでいい?)         “Does that work for you?”
« Quʼest-ce que tu en penses ? »(どう思う?)  “What do you think?”

Mariko:オーストラリア人の知り合いがイギリスの大学に移ったんだけどね、引越したばかりの頃、何故みんな自分に “Are you alright?” と聞くんだろう、そんなに大丈夫じゃないように見えるのか? って思ったって。(笑)

Steve:UK は、とくに南イングランドだと、“Alright?” ってふつうのあいさつなんだよね。それに答えるときも“Alright?” か、“Hi.” って言えばいいんだよ。

Mariko:ね、“Good afternoon.” って使われない言葉? 私は、1年間の英語圏滞在で1回しか聞かなかった。大きなホテルのホテルマンが言った。

Steve:正午を過ぎていて、改まった状況で相手が知らない年上の人なら、私は “Good afternoon.” と言うと思う。でも、“Good morning.” に比べたら、使う頻度は少ないね。そう言えば、親しい人同士で “Bye” の代わりによく言うあれは、書く時« À tout ! » なの? « À toute ! » なの?

Mariko:それね。« À tout à lʼheure. » とか « À tout de suite. » の省略だとしたら、t を発音しても、書く時はe なしでよさそうな気もするけど、« À toute ! » と書くのよね。しかも、« À toute ! » は、« À tout à lʼheure ! » よりも意味が広くて、数時間後に会うわけではない時にも使う。だから « À plus. » とほとんど同じ意味なんだけど、親しい同士なら« À plus. » より、« À toute ! » の方がよく使うって、同僚は言ってた。日本語にするなら、「あとでね」でも「またね」でもなく、「じゃあね」みたいな感じかな。

Steve:あらたまった関係でなければ、また会うかどうかわからない時、英語では“See you.” と言うかな。

Mariko:それはフランス語では« À bientôt. » とか « À la prochaine fois. » じゃない?でも、“See you soon.” もすぐに会わない場合に使うことあるでしょ?

Steve:“See you soon.” も“See you later.” も、また会うはずの人なら、会う日付がとくに決まってなくても使う。soon の方がlater よりも再会が近いと言えるけど、ふだんは1 年に1 回も会わない人と、2 ヶ月後に会う場合なら“See you soon.” と言うよ。文脈しだいだね。少し丁寧に言うなら、“Iʼll see you soon”. 日付が決まっているなら、“See you then.” と言う。

Mariko:たとえば待合せの日時を決める時、それでいいか相手に聞くのに、フランス語だと« Ça te va( comme ça) ? »って言うけど、英語では、“Is that OK for you?”でいい?

Steve:“Does that work for you?” もよく使うよ。

Mariko:work 使うんだ。“How about you?” はどう?

Steve:“How about you?” は、« Et toi ? » « Et vous ? » と同じだから、「私はこの日時がいいけど、あなたはどう?」という感じの« Ça te va ? » なら、それに対応する英語は“How about you?” になるね。

Mariko:« Ça te va ? » に対して、« Ça me va très bien. » と答えるとして、 “Does that work for you?” の返事には “That works.” って言うの?

Steve:“Yes, that works.” と言ってもいいけど、その質問に賛成して答えるなら“That would be great.” と言う方が多いと思う。

Mariko:それは« Ça serait génial. » よね。提案を喜んでいる(ように見せる)感じ。“That works.” って、フランス語の« Ça marche. » と同じ?

Steve:ん……やっぱり« Ça me va. » に近いと思う。

Mariko:“How about...” を、« Ça te dirait de... » の提案の表現の代わりに使える?たとえば、« Ça te dirait dʼaller manger du sushi ? » とか。

Steve:« Ça te dirait de... » は、ちょっと丁寧な言い方?そしたら “Shall we go to eat sushi?” の方がニュアンスが近いけど、« Ça te dit... » なら“How about eating sushi?” でいいと思う。

Mariko:あと、メールのあいさつのこと聞きたかった。Steve は、あまりよく知らない仕事関係の人に、« Bonjour. » の代わりに英語で何と書く?

Steve:私は、メールなら誰にでも“Hi” か“Hello” だよ。えらい人には、“Dear + 名前”にする。

Mariko:なるほど。親しくない知り合いに“Hello” でいいよね?

Steve:いいと思うよ。

Mariko:メールとかで、日付の決定なんかよりもっと複雑な何かを提案して、最後に« Quʼest-ce que tu en penses ? » と聞くことがあるけど、そういう場合にも“Does that work for you?” は使える?

Steve:使えるけど、“What do you think?” でいいんじゃない?

Mariko:提案に賛成する表現の« Bonne idée ! » と“Good idea !”、« Pourquoi pas ? » と“Why not ?” は、フランス語と英語で同じ言い方ね。

Steve:文句なしに賛成なら、“Letʼs do it!” “Letʼs go for it!” と言うこともあるよ。

Mariko:「そうしよう!」なら、フランス語でも« On va faire comme ça. » « On va le faire. » と言う。ね、vous で話す知り合いに、事務的でなく丁寧に書くメールで、結びの言葉はどうしてる? フランス語なら、« Très cordialement. » か« Bien à vous. » と書くような場合……。

Steve:そういうの、本当にむずかしいよね。その場合ならRegards か、Best regards か、Best wishes かな。Sincerely は、かなり距離の遠い人にしか使わない。

【今月のまとめ】
あいさつや、提案の表現などは、相手との関係や状況によって各言語の中でもいろいろな言い方があり、ある文脈では英語とフランス語で同じ言い方をしても、また別の文脈ではちがってくる。

《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》


バンクーバーのグランヴィル・アイランドは、かつては工場地帯でしたが、1970年代からカナダ政府の住宅金融機関(CMHC)による再開発が行われ、今日では市場やレストラン、美術学校と多くのギャラリー、劇場などが並び、住民にも観光客にも人気のスポットです。現在もここはCMHCにより管理されているので、公共の表示はすべて2言語です。(撮影:Simon Fraser 大学教育学部博士課程Magali Forte)

◇初出=『ふらんす』2018年1月号

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著者略歴

  1. 姫田麻利子(ひめた・まりこ)

    大東文化大学教授。仏語教育・異文化間教育

  2. Steve MARSHALL(スティーブ・マーシャル)

    Simon Fraser University 教育学部准教授。著書 Advance in Academic Writing

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