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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

2017年11月号 騒音問題

騒音問題

 日本で、「公園で遊ぶ子どもの声がうるさい」という苦情があると聞き、とても驚いたことがある。幼稚園や学校に苦情を述べる人もいるという。音に対しては人それぞれで、気になる音と気にならない音があるのは確かだが、公園や学校が騒音の対象となるとは思っていなかった。東京の駅のアナウンスなど、このホームも、あのホームも大音量でがなりたてるので聞き取れないほどだ。駅前では、広告、募金、選挙演説など皆が大きな音を立てている。

 それに比べれば静かなフランスである。しかし、今年の夏は少々驚く騒音問題が話題となった。アルプス地方の美しい山岳地帯で、牛やヤギの首につけている鐘がうるさいと住人が苦情を申し立てた。あのカランカランとなる風情のある鐘である。アルプスの美しい情景の一部でもある音だ。

 苦情を呈した住人とは、もちろん酪農を営む昔からの住人ではない。近年、別荘として住居を構えた人たちだ。「静けさを求めて来たというのに、牛の鐘にイライラする」とか、「朝早くから、カランカランとうるさくて眠れない」などとテレビのインタビューに答えていた。お百姓さんは早朝から働いているってことじゃないかと、文句を言う別荘族に言葉を返したかった。子どもの遊び声に文句をいう日本人に通ずるものを感じた。

 対する農家は、「ここがうるさいというなら、パリに帰ればいい」と言いつつも、鐘の大きさを少し小ぶりにするなど対策を話し合っていた。が、「今年はもう育成期間も終わりで、秋になれば放牧も減るから、とりあえずは何とかなるだろう」とのんびり答えていた。

 騒音にはフランスは、法規制もある。主に地方自治体の条例であるが、夜や日曜日の音には厳しく対処している。例えばパリでは、夜10時から朝7時まで、騒音を伴う工事や隣人の迷惑になる音は禁止されている。土曜は、朝8時までと夜8時以降は静かに、そして日曜祝日は終日である。

 確かに、住宅街での工事は、朝8時から始まり、夕方4時に終わるものが多い。工事などは施工業者がきちんと管理するので問題は少ないが、やはりもめごとが起こるのは隣人同士の音である。オーディオや楽器の音をはじめ、洗濯機やシャワー、犬の鳴き声まで様々な生活音だ。フランスらしいのは、足音だ。夜遅くや朝早くは靴で歩かないよう気を付けなければならない。

 先ほど、この原稿を執筆中に、牛の鐘で騒動となった地方自治体議会で、鐘は従来通りでよいと判断が下されたと報道があった。とりあえずは、一安心だ。

◇初出=『ふらんす』2017年11月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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