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姫田麻利子+Steve MARSHALL「友だちだよね? フランス語と英語のちがうところ」

第7回 不定冠詞と定冠詞

 日常的によく使う表現や文のかたちについて、英語とフランス語の似ているようで、ちがうところを探しています。今月は、不定冠詞と定冠詞の使い方を見ていきます。

今月の表現
1)ノートパソコンを買いたい。
 英 I want to buy a laptop.
 仏 Je veux acheter un PC portable.
2)昨日買ったパソコンを返品できますか?
 英 Could I return the computer that I bought yesterday?
 仏 Est-ce que je peux retourner lʼordinateur que jʼai acheté hier ?
3)彼女のオフィスにいくつか椅子がある。
 英 She has some chairs in her office.
 仏 Elle a des chaises dans son bureau.
4)携帯電話は安くなっている
 英 Cell phones are becoming cheaper.
 仏 Les portables sont moins chers maintenant.

Mariko:英語の使い方でわからないことを調べようと思って、いろいろ文法の参考書を見ていて驚くのは、冠詞の話が初めの方に見当たらないこと。フランス語の文法の教科書ではだいたい、冠詞は初めの方なのに。日本で英語を教えてる私の友達は、冠詞は、基本の考え方はやさしいけど、実は意外とややこしいから冠詞の使い分けを教えるのは後回しって言ってた。

Steve:たしかに、冠詞よりも時制を先に説明する英文法の本が多いよね。一概には言えないけど、私の周りでも、作文の評価をする時なんか、意味が分かれば冠詞の間違いを気にしない先生は多いよ。私を含め。

Mariko:フランス語だと、名詞には、複数でも数えられない名詞でも、ほとんどいつも何らかの冠詞か限定詞を付けるから、英語で冠詞がいらない時、なんだか落ち着かない。

Steve:英語もフランス語も、冠詞の基本的な考え方は同じなんだよね。特定されるか、漠然と言うか。でも、不定冠詞か定冠詞か、違う場合があるんだよね。

Mariko:特定されるなら、ふつうは定冠詞、英語ならthe、フランス語はle, la, les。Steve の用語で行くと「漠然」と言う場合は、英語では、数えられる名詞で単数ならa( an)、複数あるいは数えられない名詞なら無冠詞。フランス語では、数えられるならun, une、複数でも「いくつかの」という意味のdes を付けるし、数えられないものでも適当な量を意味するdu, de la を付ける。

Steve:私が名詞句を整理して教える時には、特定されるものか、漠然としたものかで区別して、漠然としたものとはall members of a group か、any member of a groupのことと言う。だから、「携帯電話は安くなっている」と全般的に言う時は、無冠詞複数。The は付かない。

Mariko:Steve の本の中で、総称、つまりall members of a group が、特定されない方に入ってて本当に驚いた。総称って、聞き手読み手から特定されるじゃない? だからフランス語では、総称も、le, la, les を使う。あ、英語でも、総称の時にThe 付ける場合があるのよね?

Steve:“Tigers are in danger of extinction.” の代わりに、“The tiger is in danger of extinction.” と言うのは、意味は同じだけど、アカデミックで分析的な感じ。1066 年に持ち込まれたんじゃない?

Mariko:ほんと? じゃ、ふだんは無冠詞でいいのね。

Steve:フランス語話者にありがちな英語の冠詞の間違いは、“Cell phones are becoming cheaper.” と言うところで、“ × The cell phones are becoming cheaper.” にすること。フランス語を直訳してるんだよね。反対に、英語話者がよくする間違いは、フランス語の量の表現でde をdes にしてしまうこと、例えば« Il y a beaucoup de femmes dans la réunion » と言うところ « × beaucoup des femmes » にすることだよ。

Mariko:フランス語と比べて、英語は無冠詞の場合が多いように感じるけど、« Je suis étudiant. » は、“Iʼm a student.” よね。他に違うのはどういう場合かな……フランス語は国名にle, la, les が付く。

Steve:英語もThe UK、The US、The Peopleʼs Republic of China は付けるよ。

Mariko:あとは日付? フランス語はle 17 octobre と言うけど英語はOctober 17th でしょ?

Steve:それは書く時。話す時は“October the 17th ” あるいは“the seventeenth of October” と言う。そうそう、フランス語は毎週~曜日と言う時は曜日にle を付けるけど、英語は曜日を複数にするだけ。

Mariko:フランス語でdes, du, de la を付けて言う場面なら、英語だと無冠詞か、some を付けることもあるでしょ? どういう風に使い分けてるの?

Steve:わかんない……ほとんどの場合、無冠詞とsome のちがいを感じない。

Mariko:え。じゃあ、« Tu veux du café ? » を英語にしてみて。

Steve:“Do you want coffee?” か “Do you want a coffee?”、それか “Do you want some coffee?”... “Do you want coffee?” は、(お茶じゃなくて)コーヒーのニュアンス、“a coffee” は、“a cup of coffee” の意味の時。“Do you want some coffee?” は、相手がYes と言うだろうと思ってる時に言う。そうだ、“Do you want any coffee?” なら、どこかでNo を想定してるんだけど、それに対してYes の答えが返ってくることを期待するなら、some を付けるよ。

Mariko:無冠詞かsome か、量のイメージで使い分けるのかと思ってたけど、そうじゃないのね。英語とフランス語では量の表現もちがうけど、“a couple of...” は、少ないイメージ?

Steve:“a couple of...” は、いつも2 の意味じゃなくて、少ないニュアンスで使う。“Please wait a couple of minutes.” とか。

Mariko:“in a couple of minutes” は、« dans quelques minutes. » ってことね。

【今月のまとめ】
 総称に関しては、英語では無冠詞、フランス語は定冠詞。

《カナダ英語圏 フランス語ランドスケープ》
 マニトバ州のフランス語単一母語話者人口は、カナダ国勢調査(2011)によれば3.5パーセントですが、そのフランス語コミュニティは、ケベックからの移住者と先住民の間に生まれたメティスを祖先とする抵抗の歴史と、アフリカからの移民を含む現在の多様性に特徴があります。写真は、メティス抵抗の指導者ルイ・リエルのお墓(左図)と、ウィニペグで今夏行われたCanada Games 2017 に合わせたビデオ展覧会の案内(右図)。

 

 ◇初出=『ふらんす』2017年10月号

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著者略歴

  1. 姫田麻利子(ひめた・まりこ)

    大東文化大学教授。仏語教育・異文化間教育

  2. Steve MARSHALL(スティーブ・マーシャル)

    Simon Fraser University 教育学部准教授。著書 Advance in Academic Writing

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