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インタビュー「ヴィアネ、規律正しきシンガー」Karyn NISHIMURA-POUPÉE


ヴィアネ


「ヴィアネ、規律正しきシンガー」Karyn NISHIMURA-POUPÉE

 彼の名はヴィアネ。職業はモリエールの言語で歌うシンガーソングライター。フランス本国ではじめに注目された「Pas là(邦題:パ・ラ~君がいない~)」がたちまち大ヒット。ファーストアルバム『Idées blanches(邦題:君へのラヴソング)』の代表曲だ。このアルバムで彼は一躍脚光を浴びた。豊かな感性と、確かなギターの腕前、それにあのルックス。

 フランス映画祭の一環として開かれた東京でのコンサート直前、対面したヴィアネは、まさに評判のとおり。魅力的で、落ち着きがあって、思慮深い若者だった。「フランス語の歌が世界を旅するのは、英語が支配的な時代であればこそ、とても大切なことだと思います。僕が外国に何かをもたらすことができるとすれば、それは、そう、僕の言語、僕の文化なので」。彼の書く歌詞で語られるのは、(たくさんの)愛、別離、環境、不安定な状況、自己省察、高揚感、出発の欲求……どれも普遍的なテーマばかり。「日常生活のひとつひとつの場面が僕の心に触れるんです。違う場所に行くたびに、新鮮な感覚が芽生える。それがインスピレーションになって、歌詞が生まれる土壌となります」

 「日本に来ることは子供の頃から僕の夢のひとつでした。日本という国には、素晴らしく洗練されていて、繊細で、審美的にも人間関係においても完全に環境が変わってしまう場所、そんなイメージを抱いていましたから。日本とフランス、2 つの文化は何もかも異なるのだろうとずっと思っていて、そこにすごく心を惹かれます」

 「とはいえ、日本に来て歌う日が来るなんて、まったく想像もしていませんでした。人生のどこかのタイミングで、きっと訪れることになるとは思っていましたけれど。僕はモードを学び、三宅一生や山本燿司といった人々に憧れました。彼らの美学的な規律に衝撃を受けたんです。自分に通じるものがあったから。規律とは、狂気や熱情を妨げるものじゃなくて、それに枠組みを与えるものだ、それこそが美の鍵なんだ、って」

 驚いたのは、日本に心を惹かれ、かつ、子供の頃から日本のアニメや漫画、ゲームにのめり込んだフランスの若者世代に属しているにもかかわらず、彼はそうしたブームには乗らなかった、例外的なケースだということだ。「そういうのは全然僕のスタイルじゃなくて、はまったことがありません。アニメはあまりピンときませんでした。文章が、本当の言葉が欠けていて。いい小説を読むほうが好きでした」。かといって、全てを拒絶したわけでもない。「宮崎駿の映画は大好きです。壮大で、奇想天外で、気狂いじみたポエジーに溢れていて、感動しました。(久石譲の)音楽も素晴らしい」

 東京の印象を尋ねた。首都を発見する時間はあまりなかったようだが、それでも日本に滞在する外国人には必見の街、秋葉原は歩き回ったとのこと。「くらくらしました。火星に降り立ったみたいな。あれはすごい。クレイジー」。だけど、日本のあらゆるところで一番印象深かったのは「人との関わり方です。何もかも控えめで、礼儀正しくて。動揺してしまうぐらい」。同じく驚きがおさまらないのは、日本のジャーナリストから「マクロン大統領と夫人の年齢差」について尋ねられたことだったとか。「別世界の」質問でした、と彼は言った。

 ヴィアネのファーストアルバム日本盤『君へのラヴソング』は9 月13 日発売。9 月20日には東京でコンサートが開催される。

(カリン・にしむら=プペ/訳:深川聡子)

◇初出=『ふらんす』2017年9月号

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