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「アクチュアリテ 政治」山口昌子

2017年9月号 マクロン大統領の外交力

マクロン大統領の外交力


 マクロン仏大統領が、トランプ米大統領、プーチン露大統領、ネタニヤフ・イスラエル首相という大物かつ問題の首脳たちを、次々に訪仏させるという外交力を発揮した。しかも、歴史的記念日を利用するという芸の細かさだ。

 トランプ大統領が招待されたのは7 月14 日の革命記念日。今年が第一次大戦に米軍が参戦した1917 年からちょうど100 年に当たるというのが理由だ。目玉行事のシャンゼリゼ大通りでの軍事行進を、2 人でコンコルド広場の特別席から両夫人や閣僚らと閲兵した。軍事行進(歩兵3700 人、戦車など211 両、騎馬隊241 人、戦闘機など63 機、軍用ヘリ29機)には米陸軍150 人(うち5 人は第一次大戦当時の制服)と空軍機8 機も参加。マクロン大統領は行進終了後、「両国は決して離反することはない」と述べ、“ 永遠の同盟国” であることを強調した。

 トランプ大統領は前日午後に到着。首脳会談、共同記者会見の後、夜は両夫妻だけでエッフェル塔2 階のレストランで、三ツ星シェフのアラン・デュカスの料理を堪能した。トランプ大統領はフランスが開催国として力を入れていた気候変動抑制に関する国際協定「パリ協定」の離脱を宣言しているが、マクロン大統領の接待攻勢によって復帰するかどうか──。

 米大統領に先立ち、5 月29 日に訪仏したのはプーチン露大統領だ。仏露関係樹立300 周年を記念して、パリ郊外ヴェルサイユ宮殿で開催された「ピョートル大帝展」の開催式に招待され、マクロン大統領と城館の一角「グラン・トリアンノン」でワーキング・ランチをとった。フランスら欧州連合(EU)はロシアのクリミア占拠に反対して経済制裁を実施中のうえ、シリアのアサド政権への対応でも対立があるが、反テロでは、「対話を中止しない」ことで一致した。

 プーチン大統領は昨年、パリ市内に開館したロシア正教聖堂の開館式への出席をオランド前大統領によって拒否されているので、メディアでも「マクロンには好感を持ったはず」だと指摘されている。

 7 月16 日の、第二次大戦中の「ユダヤ系住民一斉検挙」75 周年式典には、イスラエルのネタニヤフ首相を同国首相として初めて招待した。一斉検挙でナチの強制収容所送りになった者のうち、児童8000 人を含む13000 人余が死去した。95 年にシラク大統領(当時)が初めて、一斉検挙は「ゲシュタポ(独ナチの秘密警察)」ではなく「仏当局」によって実施されたことを認めたが、マクロン大統領は式典で、「フランス国家の責任」を改めて確認した。仏内での反ユダヤ主義拡大を警戒する首相だが、マクロン大統領に対して、「深い感謝」を表明した。

 

◇初出=『ふらんす』2017年9月号

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著者略歴

  1. 山口昌子(やまぐち・しょうこ)

    産經新聞前パリ支局長。著書『フランス流テロとの戦い方』『パリの福澤諭吉』

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